「アイオロス、お前を次期教皇に、───」
告げられた采配に、笑う事以外何が出来ただろう。そうしなければ、保てなかった。

耳鳴りが聞こえてきて、気が狂ったかと思った。









<< an intermission -幕間:世界が闇に染まった日。- >>








「どうしてだ、何故っ…?!あんな無能な男、殺してしまえば良いじゃないかっ!!」


暗い室内の中、頭を抱えうずくまるサガへ、双子の弟がそう叫んだ。


「殺せばいい!そしたら、サガ…お前が教皇になれる!それで良いじゃないか。あんな脳天気な男に教皇が務まるわけない!」
「……あの男が…殺せるのだと、お前はそう本気で思っているのか?…」


震えた声音がそう紡ぐのを、カノンは眉根を寄せて問い返す。


「あ?何だよ、サガより強いのか、アイツ?そうには見えな」
「────違う、アイツは『英雄』なんだ…」


サガは覆っていた手から顔をだし、弟を見た。震えた、何かに酷く怯えたかの様な瞳が、見つめた。薄暗い中見えるはずがないのに、一瞬その瞳が赤く揺らいだ気がして、カノンは目を瞠る。兄の瞳の色は、蒼だ。見えるはずのない闇の中、でも見えたのは、歪んだ紅…。


「……サガ…?」
「私は、今も鮮明に覚えている…アイツが…射手座の聖衣を継承した日の事を……、あの日……私は『英雄』を見てしまったんだ…。アイツこそが、神の選んだ……、」
「おい、サガっ!落ち着けって…」
「お前は見ていないから、そう云えるんだっ…。アイツの魂がどれ程眩いのかお前は知らない…、あのまばゆさが…私を、いつか、消すんだ…。そう、アイツが、私を殺すんだっ…」
「──────サガっ!!」



式の途中から、雨が降り出した。小雨であったし、式が途中まですんでしまっていたので今更やめるのも面倒だと教皇の一言によって式は続行された。先に双子座の聖衣をうけとったサガが横にひかえる中、ついにアイオロスの番がまわってくる。教皇が名を呼び、アイオロスが短く応えた。低く、良く通った声だった。
教皇より数段下にいたアイオロスが呼ばれ、立ち上がる。そして、そのまま前へ、教皇のもとへとゆっくりと進んでいった、時。
さぁ…と、静かに雨がやんでいったのだ。灰色の雲も晴れる。
───そして、雲間から光が漏れ始めた。
光が、彼が進めば進む程、あふれはじめていって…。
サガは思わず、天を見上げた。

アイオロスが、射手座の聖衣をまとった瞬間、その肩越しにみえたのは、綺麗な七色の虹。彼の周りは、光にあふれていた。
まるで、天自らが彼を祝福している様にサガには見えた。


黄金の聖衣を纏った彼は、天からの光を受けた彼は、サガにとってあの瞬間本当にまばゆかった。




「私とは、違う…アイツは、全てに愛されている…。私は厭まれて育ったのに…。だからか、だからなのかっ!アイツは神に選ばれたのだ。選ばれた『英雄』の性をもっている。私には判る。星がそう告げた。だから、私が勝てるわけない…!アイツがいたら、一生私は……」


───闇は、光に掻き消される運命。
英雄に、誰が勝てるというのだろうか。


「…一生、アイツに勝てないまま……」


負けられないのに。それでは、駄目なのに。誰よりも優れていなければ、他に何の取り柄もない自分はいらない存在となってしまうから。勝たなければ、意味がない。


「『英雄』を殺さなければ…私は一生、勝てない…」


呟いたサガの瞳の色は、紅かった。






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