つないだ手を離さないまま、何処まで行けるのだろう。
彼は笑って、こう答えた。


最初から、何処かに行けるとは思っていなかったんだよ。









虹の彼方で、僕は眠りにつく。 -空が、蒼い日に。-




救いを求め、泣きはらす子供を見て一瞬戸惑い手をさしのべずにいた私とは違い、その黄金の翼を重たげもなく背負った男が子供を躊躇いもなく抱き上げた。


「大丈夫。行く処がないなら、俺達とおいで」


子供は、小さく頷いた様に見えた。
少年は小さく、穏やかに微笑みながら、振り返る。


「…行こうか、サガ」
「…………」


戦場だった。その場所のなれはて。聖域の者として二人が此処に来た時にはすでに終わっていた。子供は、その地に取り残された子であった。
今はただ、いつもの青空が頭上をひろがる。たとえ、その下に赤と黒にまみれたヒトの骸が転がっていようと。空は、変わらない。


「サガ?」
「あ、ああ…今行く…」


子供を抱えたまま先を行っていた少年がこちらを再び振り返って呼んでいた。サガは、思考を振り払うかの様に頭を軽く振ってから駆け寄る。二人の距離が縮まってから、ふと、その少年に手をとられた。片手に子供を抱えたまま、少年が微笑む。
突然の行動に、サガは眉宇をひそめた。


「…………何だ?」
「いや、サガって放っておくとすぐ何処かに行っちゃいそうでさ。何か、時々手で繋ぎ止めたくなる。ああ、まるで、翼が生えてるみたいに」
「…生えてなどいないだろ」
「ああ、判ってる。だから、俺は未だ手をつないでいられるんだから」


それは、いつかはその手が離れるのだという事を知っている様な気がして、だからサガは想わずその手を振り払った。何故だか、腹がたった。少年は苦笑しながら、それでもその手を再びとる。


「子供が見てるぞ、サガ」
「……子供が見てる前で、手なんか余計つなげるか」
「仲良く見えて、良いじゃないか」


彼が笑いながらも、強引に手を掴んできて、最終的にはいつもの様にサガが折れた。手をつなぎながら、こちらを不思議そうにみてきた子供の頭を優しくなでてやる。


「……いつまで、こんな事が続くのだろうな…」


なでながら、ぽつりと呟いたサガの言葉に、アイオロスも察して応える。


「…さあ……判らないな」
「それでも、私達には何も出来ないんだ。止める事も…」
「こうやって、守る事は出来るだろう?」


子供を抱え直しながら、返された言葉。先にサガがその場に立ち止まる。手をつないでいた少年も自然に足をとめた。サガは、少年を真っ直ぐと見る。


「そして、明日も空が青く晴れ渡る事を祈るしかない」


空の彼方に見える太陽王が、その黄金の羽根を照らした。射る様な反射光が、サガの視界を染める。
黄金の翼をもった少年は、その陽光に包まれながら微笑む。


「帰ろう」


煌めいた翼がまばゆすぎて、サガは思わず目を細める。
まばゆかった。彼を包む、全てが。存在、そのものが。その揺るぎない真っ直ぐさが。

────それは、まるで。


「…お前は、きっと、いつか私の手の届かない存在になるんだろうな」
「え、何が…?」
「……お前は……『英雄』になる」


思わず口にでた言葉はでも、云った途端確信になる。彼は、きっと、そうなる。まばゆい翼を背に、雄大なる小宇宙に抱かれ、強き意志と真っ直ぐな瞳で全てを見据え…。
きっと、サガの手の届かない存在となるのだ。
ためらわず、子供を抱きかかえた時と同じ様に。


「……サガ、」
「もう帰ろう。アイオロス」


サガが優しく促す。その微笑みに、アイオロスは複雑な表情で返す。でもやがて、再び歩き始めた。彼の歩む先に、その世界の果てに、光が差し込んでいる。その中で、ぽつりと彼が小さく呟いた。


「そうやって、お前が俺の未来を決めつけてしまうんだな」


太陽のまわりには陽光が見せる七色の虹が見えた。



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