「さよなら」の一年後の話です。ロス誕おめでとうなつもりでした。



「 『キョーコウの好きなものはなんですか?』 」

「……なに、その棒読み」
「あん?いいからとっとと答えろよ。女神のお言葉を無視するつもりか」

久しぶりに日本から聖域に戻ってきた男の、この相変わらずな態度にアイオロスは溜め息を吐くより前に苦笑してしまう。
途端に男の眉間に皺が寄ると、その表情がまさしく男の兄にそっくりだった。笑っていたら、フォークを持つ手が誤って、綺麗にもられていたはずのケーキを無惨にも崩してしまう。

「…先月にも女神からの同じ質問に答えたから、私はこのケーキを頂いたきがするのだけど。カノン」
「『美味しい日本のケーキが食べたい』か?一日一ホールで一年分。日々激務をこなす教皇へのささやかな誕生日祝いにと、…光栄なことだな。名誉ある戦死ではなく、糖尿病になって死ぬのが夢か」
「いや…さすがに一年分とは私も言ってない…」

そう呟きながら、また一口あまい味を堪能する。(日本からカノンと一緒に届いた)本日のケーキはアフタヌーンティーの期間限定苺ケーキだ。

「で?返答は?早くしろよ。いつまでも此処にいたかねーし」
「そういわれてもな」
「追伸。『観念して、本当に欲しいものをおっしゃいなさい』」

…ケーキでいいです、という素朴な答えは派手好きの女神にとってあまりにも味気無さすぎたのか否か。そのせいで来年への意欲を燃やされ……これは、その誕生日にむけてのリサーチなのかもしれない。うっすらと見え隠れするのは物騒な女神の御意志だ。

「…何にしろ、答えておくのが賢明だな。キョーコウさま」

ごもっとも。
ふっと視線の先を窓越しの空へやる。フォークの先が、かつんと皿にあたった。

「…生きて、俺がいなくても元気でいてくれれば、」
「あ?」
「それが望みの全て」
「─────アイオロス」

咎めるような声に、ゆっくりと笑んでみせた。

「生きていれば、そうしたら、いつか必ず巡り逢えるだろ。俺はそれに凄く惹かれるね」

カノンの瞳が、何かを堪え難いように細まり、やがて完全に閉じた。
教皇、と。耳に心地良い低音が言葉を紡ぐ。

「ご報告したい事が」
「聴こう」
「先年、退位した双子座の黄金聖闘士であり、我が兄サガの子が、─────」


『お腹の子…男の子だってね。聞いたよ。きっと、大丈夫だ』
『……何がだ』
『俺の星が騒いでる。きっと…、俺のあとを継ぐ子になる』

君の子供は、俺の星座のものになる。

(子供じみた執着から吐き出されたあの日の、あの言葉)
(現実に、なった)(なって、それで?)


「…それは、楽しみだ」

教皇は微笑みながら、最後までとっておいた苺をフォークでさした。


(本当に欲しいものは、何だった?)




(061212)