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紅のラプンツェル4 ラプンツェルを見つけてはいけない。 ラプンツェルは、呪われた実の葉。 「サガは、此処から出た事ないのか?」 本当に、再び此処へとやってきた男はそう云って、サガの眼を覗き込んでくる。 サガはこくりを頷いた。 「ない。昔は外の世界にもいたが…幼い頃なのでよく覚えていない。」 サガにとっては、この窓から見える外の景色が世界の全てだった。とても小さな世界だった。また、夜はほとんど寝た事はなく、昼に寝るため、夜の景色ばかりが記憶にあるのだ。 「…出たいとは、思わない?」 「別に、いい。それに…、」 此処からラプンツェルの子が出ると、即座に神父の呪いがかかるのだ。 でも、どちらにしろ、出たいとは思わない。別に、どうでも良かった。出てしまえば、もっと多くのヒトを殺してしまうだけだ。ラプンツェルは、呪われているから。 「………でも…もし、良かったら…」 「ん?」 「良かったら、外の世界の話を教えて欲しい…。」 緑色の瞳は数回瞬いた後、柔らかに微笑んだ。 「俺の知っている世界で良いのなら。」 いつもなら、囁かれる睦言を背に、ラプンツェルの子は月を見ていた。 誰の言葉も、ラプンツェルの子の耳には響かない。でもささやきは止まず、誰もがその美にのめり込んでしまう。月を、見ていた。ずっと。どんな事をされても、気付けば視線は相手ではなく月へと向かった。 ────でも、今日は、違う。囁かれるのは睦言ではない。触れてくる事もない。 音のない静かな世界に包まれながら、アイオロスが語る世界をサガは聞いた。 ちゃんと、聞いた。 そして、二人で月を見上げていた。 「こうやって…手をかざせば、月がこの手の中におさまる気がするだろ?だから、小さい頃からずっと月が欲しかった。」 月ほど美しいモノを、サガは知らない。 「手が触れられないからこそ、欲しくなるんだろう、余計に。」 アイオロスが、静かにそう微笑んで告げる。穏やかな時だった。 「そうなのかもしれない…。」 「月が、今も欲しい?」 「───…ああ。」 サガが、わずかに顔をふせると、ふとその手がロスにとられた。顔を思わず、あげる。 瞳が、出逢う。 「なら、サガに月をあげよう。」 サガは、云われるがまま 窓の外に両手をだした。 アイオロスは持ってきた荷物の中から筒を取り出す。 「こぼさない様にね。」 「……え?」 返答はなく。両の掌に、筒からでてきた水がばしゃばしゃと降ってきた。サガは慌てて、指の合間を隙間なくしようとする。水を、掌の中にためようとした。 透明な水は、月明かりに光と共にこぼれていく。きらきら、きらきらと。 「これぐらいでいいかな、と…。」 「何をするつもりなんだ?」 「月を手にとるんだろ。ほら、じっとして。」 くわしい事を云わないアイオロスにサガはムッとしながらも、云われた通り、じっと水一滴もこぼさぬ様にしていた。 やがて、掌の中の小さな水面から、波紋が消えていく。 「ほら、月だ。サガ。」 アイオロスが微笑んで告げた。指さすは、掌の水面。 小さな水鏡に映り込んだのは、月のカケラ。 明るすぎる月光が、水面にも月の光をこばしていた。 ゆらゆら、きらきら。揺れながらも、掌の中には確かに月が、其処に在る。 幼い頃から焦がれた 掴めなかった月だ。 「満足頂けましたか?」 ふざけた口調に、サガは思わず笑う。 笑ったせいで、掌の月が揺れて、消えた。 月が消えても、サガの笑みは消えなかった。 next>> |