のラプンツェル2




空が、紫色に染まりゆこうとする。
太陽王を出迎える為に、空に神聖な色をしく。
夜が、明ける。
しんと、耳が痛くなってしまいそうな程に静けさを保っている時。

外からの光が、室内を明るくしてゆく。


「………どうして、……」


こぼした言葉とともに、肩にかかっていた金の髪がするりと背へすべっていく。
それは、美しい金の髪だった。
金、と一言では言い表せない、美しい色合い。艶やかなソレ。
光にあたる度に、きらきら煌めく。
そして、とても長い長い髪だった。長い長い髪は、室内中に千歳に散っている。自らの足に届く程、というわけでもない。もっと、もっと、長かった。長いが、その毛先までも美しかった。
爪の先までも、その佳人は美しかったのだ。


『何故、お前がそんな顔をする?』


声は、何処からともなく降り、佳人の鼓膜を震わせた。低く、何処か嘲笑うかの様な声音に、佳人はその眉間に皺を刻む。


「……毎朝、毎朝、こんなものばかり見て、気分が良いわけない。」


白く細い腕に抱えたソレを抱きしめながら、佳人はそう呟く。声は、震えていた。


『いい加減に、認めろ。諦めろ。お前は、そうしなければ生きられない。ヒトが、動物を狩るのと同じではないか。何故、判らない?』
「五月蠅い、黙れっ!」
『何に、お前はそうこだわるのだ?わからんなぁ。』
「夜が明けるぞっ!さっさと、闇に還れっ!!」
『───云われなくとも。悪魔の実の子ラプンツェル。』


不意に、気配が遠ざかっていく。そして、声は聞こえなくなる。
ああ、そう、夜が明ける。


「…………さよなら、シュラ…。」


眩い太陽王が、世界を照る。差し込む陽の欠片。陽にあたった部分から、その存在は存在を無くし、砂の粒となっていった。ぱらぱら、ぱらぱらと…。
魂のない体は、闇の終焉とともに砂となる運命。
いくら、抱きしめてはなさない様にしようとも、そのさだめにはあらがえない。腕に抱いた温もりは、砂に散っていった。




ラプンツェルは、悪魔の実の葉。
ラプンツェルの葉を食べたのは、母だった。
身重の母の為に、父が魔女の家から甘い匂いのするラプンツェルの葉をとって、母に食べさせたのが始まりだった。
ラプンツェルは、悪魔の実の葉。
一口でも味を覚えてしまえば、それ以外の食べ物は皆砂クズにしか思えなくなる。
ラプンツェルは、悪魔の実の葉。
母はそれ以来、ラプンツェルの葉ばかりを食べ続けた。
ラプンツェルは、悪魔の実の葉。
生まれた子供は、ラプンツェルの祝福を受けた。

ラプンツェルを育てるのに必要なのは水ではなく、ヒトの魂。
美しく育つかわりに、ヒトの魂を食す者となる。
母胎から這い出る為に、まず母の魂を。
空いた腹を満たす為に、父の魂を。
その次は、養父を。隣の家の子を。他の村人を。旅人を…。
周囲の人々が気付いた頃には、村人の半分以上が子と関わる事により死んでいった。
それを知った神父によってようやく、ラプンツェルの子は、白い塔へ封じられた。
入り口も出口もない白い孤高の塔。あるのは、空を見上げる窓だけ。
それでも、ラプンツェルは、その塔で生きた。
両親を喪うかわりに得たその美が、ヒトを自然に引きよせた。
交わるかわりに、魂を得ていった。
ヒトの死のかわりに、自分の生を得た。


ラプンツェルは、生きていた。


その白い塔を出る事もかなわず、一人で。






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