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何度も夢と現を往復しながら、ようやくとサガは夢を見る事に飽きた。 すっかり覚めてしまった眼であたりをきょろきょろと見回す。青年の膝枕でうたた寝していたはずだがいつのまにかベッドの中にいた。その青年はベッドサイドの椅子に腰掛け、眠っている。疲れているのか、サガが軽く揺すっても起きなかった。 青年が相手をしなければ、サガは暇だった。 いつもなら彼の目覚めを待つが、熟睡の末心地よい目覚めを得たサガは彼を待つ時間さえ勿体なく感じられる。 だから、サガは立ち上がり、こっそり部屋を出てしまった。 *** ふらふらとあてもなく、塔の外の花園を歩く。広大な花畑は季節問わずたくさんの花が咲き誇っていた。空もいつもの様に美しく蒼い。…今日も何も変わっていない。 ふと、青年をつれず一人で此処を歩いた事はなかったと気付く。 散歩しようにも、何処までいっても同じ美しい景色が広がっているだけだ。 つまらない。彼がいなければ此処は何てつまらない世界なのだろうと一瞬感じた。此処には太陽でさえ存在しない。 「………そういえば、」 何となく空をみて、思う。 「この空には、鳥がいないな」 「鳥にとって、此処は飛ぶに値する空じゃないからだろう」 知らない男の声に驚いてサガが、声のしたほう…目の前をはっとして見つめる。そこには、黒いローブを纏った男がたたずんでいた。真っ黒なそれは、鮮やかな色彩で埋め尽くされた花畑にひどく不釣り合いだった。 「もとより、鳥は神に愛されぬからな。…女神アテナは、梟を愛でていたが」 「……………貴方は、一体?」 「判らぬか」 それは悲しい事だと男が笑う。目深に被っているせいで、端をつりあげ笑う口元しか見えなかった。言葉の意味がサガには矢張り判らない。 「鳥が好きか?」 男がそう問うから、サガは素直に頷く。空を悠々と飛ぶ姿は焦がれるものがある。 この世界にはいないのに、この世界以前を知らないはずなのに、何故か脳裏にまざまざと鳥が飛ぶ姿が思い浮かぶ。白い鳥だった。 「昔からよく空を見上げていると思ったら…なるほどな。そうやって、手に入れられぬものばかりを必死に求め続けてきたわけか」 「私を知っているのですか?…」 「無論。よく知っているから、わざわざ此処まで出向いてやったのだ」 サガは想わず首をふる。よく判ってないのに、それでも首をふって拒絶した。 一歩、さがる。二歩。男は動かない。じっとフードの下からこちらを見ているのが判る。 射手座の名を呼べば、彼がすぐにやってきてくれるだろうか。 だが、見透かしたかのように男がまた笑った。 「やめておけ。もう充分だろう。お前達は限界だ。お前は風だが、奴は火。奴は翼ある鳥だが、お前は風にゆれる木の枝。一度は交われど、結びつく事はない。二重螺旋の先は、一つになれない。サガよ、鳥をもう空に飛ばしてやれ」 …以前にも、同じ事を云われたきがした。 サガは耳をおさえ、空を仰ぐ。蒼い。鳥のいない、ただ美しいだけの。どくどくと早鐘をうつ自分の心音を聞きながら、それでも首をふった。その言葉を告げられるまで。 「女神が、お待ちだ」 風の音に混じって、少女の歌声をきいた。 082. 気まぐれ → 071. 情熱 |