| 近付いてくる気配に気付いて、一番最初にデスマスクが顔をゆがめた。 「………わりぃ、急に差し込みが…」 くるりと背を向け逃げようとする同期の肩をアフロディーテが掴む。愛と美の女神と同じ名を抱いた青年はにっこりと微笑んで告げた。 「此処で逃げたって、今度は教皇に半殺しにされるだけだぞ」 「アイツと俺の相性最悪だって知ってるだろ!?昔っから何かとあっちゃー俺の頭殴りやがって。叩くじゃねぇぞ、殴るんだぞ?思いっきり。あいつの顔思い出す度に今でも頭痛くなるしな。トラウマなんだよ!ぜってぇ俺は近付かねぇぞ!」 「トラウマだろうと何だろうと、あきらめろ。往生際が悪い」 もうすぐそこまで来てる。 冥衣を纏っていようとも肌にびしびしと感じる攻撃的な小宇宙に苦笑いしながら告げた。こんなに強大な小宇宙を感じたのは久々だ。逃げたい気持ちも判るなとアフロディーテは思う。此処で「彼」を待たねばならない理由自体が莫迦らしいので尚更だ。 「あの世に行ってもこれじゃあ、やってられないね」 「…俺も、…死後の世界までお前らとつるむ事になるとは思わなかった…」 「しかも、尊敬する先輩をまたヤらなきゃならないしなあ、お前」 デスマスクが笑って云えば、シュラがむっとした顔で睨んでくる。それを見て、更に笑った。死んでも何も変わらない。 結局自分達はまた集い、とある二人の騒動に巻き込まれてしまっている。 「和むのも良いが、もの凄い速さで近付いてくるぞ」 三人の傍でじっと目の前の扉でもある壁を見つめていた水瓶座の青年が口を開いた。その青年は手を壁にかざし、刹那にして氷付けにしてしまう。少しでもの時間稼ぎだ。 「ああ、もう来ちゃった」 告げて、溜め息をついたのは、アフロディーテ。次の瞬間、その空間にドン!という激しい轟音とともに、氷の壁の中央が大きく盛り上がる。徐々に大きくなっていくそれは、真ん中から赤い色を帯び始めた。絶対零度の氷も湯気をあげる。 確かこの扉は、神と許された者にしか通れない凄い壁じゃなかったのかと魚座が呟く。その呟きも、続いて聞こえた二度目の轟音によって掻き消された。 デスマスクが思わず笑った。 「炎だな、本当に」 続けざまに響く轟音、変形する壁、溶けてゆく氷。 じわじわと届く熱。壁に、亀裂が入った。 「火の宮って云われるとピンとこなかったんだが。……あいつ、つかみ所ないから風のが近そうだったし…。でも、一度火がつくと激しく燃えさかる炎だって云われれば納得できた。燃える時は周り巻き込んでがむしゃらに燃えるんだ。冷静な顔を装って、誰よりも熱く。全部を燃やすまで消えない。徹底的に燃やし尽くす」 大きく縦に亀裂が走った。風が吹き込んでくる、それでも笑った。 「こういう時だけ情熱的っていうの?嫌なんだよなぁ」 ────壁が崩れた。 風の音なのか壊れた音なのか判らない轟音が辺りに響き渡る。それでも誰一人怯む事なく、現れた人物を見つめた。暗闇の奥から、一歩。二歩。顔を、あげて。 微笑み一つ浮かべない翡翠の瞳をもつ男がそこに立っていた。 071. 情熱 → 033. きずな |