「020. 月光」 の続き




小宇宙を使ったら、念写が出来るのではないか?

そう莫迦気た事を云ったのは、相も変わらずあの男だった。
出来るわけないと言い張っても、アイツの決意は固く…やはりいつもの様に最後にはこちらが折れるしかなかった。
二人分のフィルムを持ち、にんまりと笑う姿を見て、諦めた。

「うーん、何か見たいモノを強く念じれば良いのかなぁ」
「…一番印象深いモノ…大事なモノとか好きなモノなら、一番上手く念写できるんじゃないか?」
「あー!さっすがぁ…あったま良いなぁサガは」
「……お前よりはな」
「どっちが綺麗に出来るか、競争しよう」

そうして、二人して額にフィルムを押しつけ、眼をきつく閉じた。
瞼裏に浮かぶ映像を、小宇宙の熱を介して、フィルムへ──。
青空の下、黄金聖闘士の二人が何故こんな事をしているのだろう…サガは思いながらも、念じていく。 何だかんだ云って、楽しかった…。

───でもやがて、この様子をみた教皇に二人して説教をくらった。





結局、現像せぬまま互いにその日は持ち帰ったはずだ。
そして引き出しに入れたっきり、すっかりサガは忘れきっていた。
…それが、今頃になって出てくるとは。

「…………アイツの呪いか。しつこいからな、アイツは…」

そうぼやきながら、サガは眼を瞑る。どうせもうすぐ、再びあの赤い意識が体を乗っ取ってしまうのだろう。あきらめに近い感情で、玉座の上、眠りにつこうとした時だった。
前触れも何もなくひどく無遠慮に、教皇の間の扉が開けられる。
サガは億劫気に眼を開けた。

「────デスマスク、」
「…昨夜云われたヤツ。出来たってさ」

投げ渡された紙袋を、サガは受け取る。
ああ、そんな事も頼んでいたのかと、緩慢な気持ちの中思った。
別に、どうでも良かったはずなのに。


デスマスクが去った後、紙袋から写真を撮りだしていく。
一枚目───それは、聖域にある森。

「……こんなの撮ったのか…?」

二枚目───闘技場。
三枚目───下から見上げた聖域。
四枚目───…アイオリア…。

「───…………これは…アイツのではないか、」

どこで取り違えてしまったのだろう…。教皇にバレた時、慌てて二人してフィルムを落としたきもする。
…ひどく昔の事の様で、よく判らなかった。

「…でも、アイツらしいモノを…念じたのか…」

どれも、聖域の中にあるもの、または近くの風景だった。それは仲良くなった近隣の村の人々のもあれば、美しい空だけのもある。


「あいつの眼には…この世界はとても美しい…綺麗なものとして映っていたわけか…」


気持ち悪くなってきた。
自分がひどく汚らしい生き物に思えてきて…これ以上、写真を見ていたくなかった。
彼の世界は──切なくなる程、綺麗すぎた。
やはり…あの日に二人の道は別たれるべきであったのだ。

────そうして、サガは、最後の一枚を、見た…。

見なければ良かったと、思った。


それは、サガとアイオロス────二人で笑っている姿だった。


全ては、もう遠すぎた…。



030. フィルム