何故、今更 こんなものが出てきてしまったんだろう。


「……そんなに私を苦しめたいか、お前は」

呟いた時にもれたのは自嘲気味な笑み。
手にしていたフィルムを、サガは握りしめた。
血まみれの手で。

月光が、その血の色をまざまざと見せつける。






「あー…やっぱりこんな処にいたのかよ…」


戸が開かれ、断りなくズカズカと入ってきたのは、銀髪の少年。
突如消えた教皇を探しに来たデスマスクだ。
心底面倒くさ気に髪をかいていた少年は、でも、目の前の人物の今のありさまを見て、眉間に皺を寄せた。


「………何、してんすか?」
「─────開かない引き出しがあったから、」
「だから?…」
「無理に開けようとしたら、取っ手が壊れた」


私室であった場所の中央で、たたずむのは法衣をまとった青年。
窓辺から漏れる月明かりが、彼の金の髪のまばゆさをみせている。
それとともに、彼のその手が赤い血に濡れている事も鮮やかな色彩として捉えられた…。足下には壊れた取っ手。
デスマスクは舌打ちとともに、その青年の手をとった。


「…莫迦か?それぐらいでこんなドバドバ無駄に血ぃ垂れ流してんじゃねぇよ。もったいねぇ」
「…さび付いていたのが悪い」
「アンタが此処をずっと放置しっぱなしだったのが悪いんだろぉが!」


怒鳴りつつ、止血の為に服の切れ端を巻いた。それでも、鮮血は止まらない。布にじわじわと染みていく血を見て、デスマスクが益々嫌そうな顔をした。
こんなに血が流れているというのに、あまりにも無表情なのが一番嫌だった。
────ヒトは痛みを感じて、死を回避するのだという。


「………サガ、」


この部屋の──双児宮の主である青年の眼はうつろ。
眼差しの先は、白金の色を放つ太陰の月。
ぎらぎらと生気感じる紅の瞳の方が、まだマシだとデスマスクはいつも思う。
これでは、自分の宮にいる死人と何も変わらない。

月明かりの様なヒトだと、同僚の一人が確かそう云っていた気がする。
月明かりの様に綺麗で優しくて…でも儚く、闇に呑み込まれてしまう時もある、と。
儚い月は確かに刹那の美しさをみせるが、儚すぎた。
綺麗すぎた、切なくなる程。


「サガ、なんで…お前此処に来たんだよ」


早く此処を去ろう…サガの手をひきながら思った。
此処は、過去しか回帰させない。
そして、月明かりはサガをより儚く脆く見せるだけだった。

長い長い通路を通ってようやく外にでた時に、此処を見ていない男が名を呼ぶ。


「───デスマスク」
「あ?」

「…このフィルム…現像してきてくれ」


生々しい血がべっとりとついたフィルム。
見たくもないのに、月光が───その血の色をデスマスクの眼に映させた。


020. 月光
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