「012. 夕陽」>>next.


此処は自分の帰る場所ではない…と、繰り返し呟き、頭を降り続ける少年を、
自分はどうしょうもなく見つめる事しかできなかった。

そんな二人を、ただ夕陽が朱に照らし上げていく。影が濃く伸びていった。

「……おい…、」

いつまでもそうしているのではと思い、声をかけた時、
ふと、その少年はようやく首を振る事をやめ、何かに気付いたかの様に顔をあげた。
途端、瞳の色合いが変わった…様に見えた。

「────アイオロス、」
「遅かったな、サガ」

見やれば、前方に横の少年と同じくらいの歳の少年が
長い階段を降りながら手をふってきた。
人好きそうな笑みをみせながら、アイオロスと呼ばれた少年が、二人の前に辿り着く。

「…どうして、」
「サガの帰りが遅かったのが悪いんだろ。
今日は、視察だけだっていうのに……って、アレ…その子…」
「………視察地に、いたんだ。教皇には私から云っておく」
「へぇ…そうか。…んじゃ、これからよろしくな!」

そう云って、少年がポンと自分の背を叩いてきた。
はっきりいって、莫迦力か、コイツ…並に尋常でない程、痛い…。
思わず、咳き込んだ。

「莫迦力で叩く莫迦が何処にいる。この莫迦!」
「あー、わるいわるいっ!…って、莫迦莫迦言い過ぎだろ、それ!」
「莫迦を莫迦と云って何が悪い」
「……本当に莫迦になったきがする」
「本当にも何も、莫迦は莫迦だ」

いつまで経っても口論をやめない二人を、自分は首を傾げながら、見続けた。会話に入ろうとしても、入れるわけない。いや、入りたくない。見ているだけで疲れそうな言い合いだった。
そうこうしているうちに、夕陽が沈んでいく。世界が闇に染まっていく。

「……あーーー!そうだ、陽が沈む前に帰ってこなきゃ、晩飯抜きだって教皇に云われてたんだっ!」
「なっ…!どうして、そういう事を早く云わないんだ!」
「だって、サガが…!」
「もう、いい!急いで、宮に戻るぞ!……あ、えっと…そうだ、君、名前は?」

唐突に問われ、驚いて少し間を空けた後…小さく答えた。

「……デスマスク、って呼ばれてた」
「…デスマスク?んじゃ、デッスーで決まりだな」

一呼吸置く間もなくそう云ったのは、アイオロスだった。

「……な……っ………???」
「ああ、もう時間がないっ!行くぞ、デッスー!」
「いや、待て、デッスーって、オイ!」
「ほら、ぼさっとしてると夕食抜きだぞ」

何がなんだか判らぬうちに、走らされた。
長い長い階段を。わけのわからぬ者とともに。
自分を此処につれてきたヒトは、最初まともそうに見えたが、此処に来て全然印象が変わった。ろくでもない奴らにしか思えない。
走りながらそう考えていると、横のサガが手をさしのべてきた。

「大丈夫か?」
「最初は辛いだろ、この階段」

サガとは反対側の横にいるアイオロスも同じ様に手をさしのべてくる。
二人の手に支えられた。

「一気に行くぞ、サガ」
「ああ。デスマスク、しっかり掴まってろよ」

言い様、一気にスピードが加速される。人間のだす速さではないと、思った。
……やはり、ろくでもない奴らなのだ。

そんな少年達は、笑っていた。
浴びる風に、こんな莫迦みたいな事をしている自分達に、
ただ、何のためらいもなく笑っていたので、あまりに笑っていたので、

だから、自分もつられて笑った。
久しぶりに笑ったもんだから、少し頬の筋肉が痛く感じる。
大した意味もなく笑うのは莫迦らしいが、
横の二人が莫迦の様に笑うので、どうでもよくなった。

これからも、こんなふうに、意味もなくただ莫迦の様に笑っていられる日々が続くのかと思うと…何故だかもっと笑えた。

もう、笑っても いいのだ。



ああ、そう笑っていた。あの頃は、誰もが笑っていた。

夕陽が沈んでいく中
───笑い声が、空に還っていく中。


なのに、サガは何故、此処は帰る場所じゃないと云ったのだろうか。
あんなに楽しげに笑っていたというのに…。


今の自分にはもう判らない、遠すぎる日の話なのだけど。




010. 遠い記憶