※シュヴァリエのパロです(前回)。謎の死をとげたサガ(♀)。その死を追うカノン。サガの仲間だったというシュラ達。聖域に堕ちる影。
事件の謎を追うカノンの体には、窮地に陥る度にサガの絶望の魂が憑依し、カノンを救う。…とかいうそんな感じ。





かの人がとっときの宝物かのように大事にしまっていた美しいドレスは、そのままかの人の死装束になった。

朝焼けに抱かれて、ただただ美しく死んでしまった幻影がまたみえてしまいそうで、紛らわせるようにカノンはそれをその場で乱暴にぬぎすてた。サガに成りすます為に着たサガのドレス。彼が苛立たしげに着替えてるのを、扉によりかかりながら見守っていたシュラがようやっと一言くちにした。

「大丈夫か……カノン」

大丈夫なわけがあるか。

「なんだよ、その眼。いいたい事があるんならいえよ!」

頭痛がおさまらない。吐き気がする程最悪な気分だった。ともすれば泣いてしまいそうで。 そしてこの男も馬鹿だから、誤魔化す事せずはっきりいうんだ。

「さっき…カノンなのか……彼女なのか、判らなくなった」
「はん。演技派だろ」

吐いた台詞は、あまりにも拙かった。あれは明らかに彷徨えるサガの魂がカノンにのりうつっていた。しかし、それにあわせるようにシュラも先ほどよりはましな事を返してくる。

「彼女は演技せずとも、いつも周りの人間を魅了していたがな」

力ない笑みをみせた男の眼はきっと俺の知らない宮廷でのサガを知っているのだろう。そこになんという名がついていたのか、きかなくても判った。

じゃあ、毎朝かかさずカサブランカを彼女に贈っていた男は彼なのだろうか。
今更きくのも虚しいきがして、やめた。


数日後、再びカノンはサガの衣装を着る事になる。この国の女王にあうためであった。サガの死の真相をみいだすため。サガの死を知らない、サガを恩人と慕う人。最初はただ偽って会えば良いと思ってた、なのにーーー…

「サガの意識なのか、俺の意識なのか時々判らなくなる…記憶が混じり合って、知りもしない景色を知っている。…あのサガの絶望がいつか俺の体を満たしてしまうのかもしれないな」

最愛であった人とひとつになれる事。それは幸福だろうか、絶望だろうか。

「あのサガが一等大切にしていた弟にそんな事しねぇよ」

煙草の煙がゆらゆらと視界の隅に消えていく。デスマスクの珍しくも優しい言葉に、カノンはようやく顔をあげた。真っ直ぐと瞳をみつめて。

「俺の知らない宮廷でのサガをお前は知っていたんだろう? ならば教えてくれ。時折俺の意識にまじってくるサガの記憶にいる男……『アイオロス』…あれは誰だ…」


朝焼けの世界を背にしながら、一途にこちらを、くるおしげに愛しげに、苛立ちとそして絶望が混じった眼はそれでも、サガだけを欲していた。
( 救ってくれ )
声を伴わず、唇だけでそう懇願した人に、俺の手が…否サガの手が儚くのばされた。泣いているのは、男だったのか、サガだったのか。
『行くな……行かないで………アイオロス』


俺の体にやどってしまった彷徨えるサガの魂のかけら。


小さく眼を見開いたデスマスクはしかし、同じように小さく(うなだれるように)首を横にふった。

「……いずれ、嫌でもお前は知るだろうさ」



出会いは、その夜の舞踏会でだった。
シュラ達が眼をはなした隙に、一人の貴族がサガに扮したカノンをダンスに誘った。当然断ろうとしたカノンにしかし、綺麗に笑った男はそのまま手をひいて無理やりカノンを宴の中心に招き入れてしまったのだ。無理やりといっても、それはあまりにも優しい手つきであり自然な動作であってカノンも抵抗しきれなかった。なにより、見た事のある顔であった。

「……おまえは…」
「本当にそっくりだ。もどかしいくらいに」

翡翠の瞳が、目の前にいるはずのカノンをみながら別のものをみていた。男の優雅な手に誘われるまま、ダンスが始まる。

「サガは君を巻き込みたくないと最後までいっていたのに、やはり来てしまったんだな。残念だ」
「………お前がサガを殺したのか?」
「……あれほど綺麗に死ぬ人なんてみたことない。きっとこの先も彼女ただ一人だ。一人だけだ」

彼のリードに抗うかのように、カノンのステップがとまった。黄昏をみつめるかのような瞳がようやくゆるゆるとカノンをみる。不自然にとまった二人にしかし気付くものもいない。立っているだけで人の眼をひくような男だというのに。

「サガは…神の詩をひもとくべく最初の生け贄だった」

サガを殺した相手を見つけたら殺してやろうと思っていた。だがカノンはそれ以上動けなかった。翡翠の瞳がこちらをみた瞬間から体ががんじがらめになったかのように動けなくなった。
( サガの、魂が…… )

「…サガは報復しようとしている。お前を!」

( なのに、何故 泣こうとするんだ… )
全身を襲う引き千切れるような、痛み。
男はそれに悲しみを帯びた笑みで応えた。口端がゆっくりとゆがんだ。

「それでももう止められないよ…さようなら、サガ」

翡翠の瞳がゆっくりと近付いた。今度こそ間近で、カノンはその色をみた。

宴は、女のかんだかい悲鳴により、終わりを告げた。
女王が、その場で謎の死をとげた。体中に赤い文字が刻まれて。

「……サガ………泣くな…」

己の体を抱きしめながら、そう、祈るように呟く。真実、報復に囚われた(それでもなお神々しいまでに美しい)かの魂に、そんなつぶやきが届くとは思わなかったが。 彼女が悲しんでいるのは、女王の死、だけではないだろう。
一瞬かすめるように触れて、そして、あっさりと離れていってしまった唇を思い出し、カノンは眼を伏せる。遠い昔に喪ってしまったような、それは、そんなぬくもりだった。

そして、残されるのはカサブランカの香り。



しゅう゛ぁりえ (071013)