捏造話のその後と原作をごちゃまぜです。射手座と、魚座の屍を抱えた双子座。
捏造話のその後なので、双子座=前世サガじゃないです。




長く長くと続く空間にただ硬質な足音だけが響く。規則的で、一切感情をこぼさない音。真っ直ぐと、迷いなくゆく足は、しかし、不意に現れた人物によって阻まれた。先ほどまで何もなかった空間に、一気に充満する負の小宇宙。阻んだ人物のみにむけられた、

「魚座の子、だね」

しかし、あからさまな気配に動じる事さえせず、翡翠の瞳をもつ射手座の青年はゆっくりと、蒼い目をもつ双子座の青年に近づいた。その青年の腕の中には、美しい赤につつまれた美しい人。遠慮なく覗き込んでくる男に、双子座は眉間の皺をより一層深くするが、口を開く事はなかった。腕の中の綺麗な存在は、とても安らかで穏やかな寝顔をしている(そう思えた)。

「血塗られた玉座を守るが為にうまれた子だった。俺がまだ、こんな地位に就いてなかった頃、よく宮の裏で吐いてる姿をみかけたよ。あんなひょろっこい子がよくここまで毒にたえたな。美しくも誇り高き茨だった」

告げながら、穏やかな微笑みを口にのせ、その美しかった髪をやさしく労るように撫でた。しかし、双子座にとってはどうでも良い事だった。この美しい青年は、「双子座」が大事にしていた一人であった。幼い頃から毒を仕込ませていたのは「双子座」であったが、この魚座はとてもその「双子座」を慕っていた。唯一、毒のきかないヒトとして。それだけだった。だから、第一の宮の守護を名目に牡羊座の手からその屍をとりあげ、無断でこの神殿にまで連れてきた。「双子座」なら、そうするだろうと思った。誰よりも神の近くへ(神が誰よりも幸福に近いのかなど、「双子座」ではない彼は知らなかったが)。

「君は、怒るかな」

ぽつりと落とされた言葉にはっと双子座は顔をあげる。その時、「君」とは一体、「誰」のことをさしていたのか、そこまで思考を巡らす余裕が双子座にはなかった。いつだって、この男の目の前だと焦らされた。喪いがたいものを喪った、あの決別の日を思い出して。奪われる恐怖を。
射手座は笑みを消し、静かな翡翠の瞳でこちらを見つめていた。

「この子の星のさだめを、神話の時代から続く輪廻を俺が断ち切ってしまいたいといえば、」

言葉のひとつひとつが、眼が、その色が、小宇宙が、何もかもが、双子座の心を惑わせた。怒りと憎しみと絶望によっていつだって双子座を、この男は(存在しているだけで)苦しめた。そして、それだけによって双子座は双子座として生きていた。(これが、「双子座」の呪いだったとしたら)

「やはり怒るか」
「それをたとえ魚座が望んでいたとしても、貴公にそれを奪う権利があるのか?私は、その身勝手さが気にくわないだけだ」
「奪う、か。俺には何一つ、俺のものがないというのに」

それをいうなら、双子座である青年にも何一つなかった。

「最高位の射手座ともあろう男が、くだらん事を」
「英雄としての何もかも、この体も血も小宇宙も、命も、神が一時的に神秘をみせる為に貸し与えたものだよ。俺には、何もない。俺としてあるべき何かなど。いつだってそうやって指の間から全てをとりこぼす。喪う。ああ、確かに愚痴になったな」

冷えた視線に、射手座の男はようやくいつもみせる微苦笑をこぼした。思えば、屍を挟むこの光景は異様であった(かつてのあの日のようでもあった)。

「我々、聖闘士は神代の誓いを忘れられない。縁は繰り返し巡る。この子もまた、次の生でも同じように己の血にまみれて命果てるのだろう、玉座を守る為に。この子だけじゃない。俺は、だから、」

それなのに、────
言葉はそこで途絶えた。双子座もまた、「それなのに」再び輪廻に流してしまったヒトの事を思い出していた。あと少しでこの輪から抜け出せたはずなのに、愚かにも再びその手をとってしまった、ヒト。

「…孤高の美しき茨は、でもその誇り高き魂故、再び魚座に巡る事を恨む事はしないな、きっと。すまない、アルバフィカ」

少しだけ身をかがめた男は、その額にそっと唇をおとした。触れるだけでも毒になるというのに、恐れもせず。祝福だったのか、餞別だったのか。どちらにしろ、今だけはやすらかに。

永遠の別離の口づけを、この男は、かのヒトにもしたのだろうか。

射手座が静かに道を譲った。だから双子座はゆっくりと止まっていた一歩をふみだす。いつかと同じで、でも違う光景だった。
この男は、何も自分には、ないと云っていたが、

「…お前は確かに奪っていたよ。そして、今もそれはお前の手にある」

小さな小さなささやきに、去りゆく背に流れる金糸を懐かしそうにみつめていた射手座は笑みを刻んだ唇で言葉を紡いだ。

「『君』から?」

何もかもがくだらなかった。
(輪廻の中に再び舞い戻っていったかのヒトは、きっと、奪われていた)


「俺が、お前に与えるものは、『死』だけだ」


何度だって己の血にまみれて孤高にも死ぬ運命がこの魚座のものであったのならば、人々の希望の為に人々によって殺される、生き残る事など許されず、必ず死ぬさだめが射手座のものであった。誰よりも華々しく。

それが、幸福なのか不幸なのか、聖闘士の理に生きない彼には関係のない事だった。



薔薇が散った日。 (070418)

置いていかれた英雄と、半身の望みにより双子座として生きる男と、英雄の手を握ったまま再び転生の輪に戻っていったヒトの幻影、そして花。