その翡翠がみえるのとみえないとで、随分違う。

精悍な面立ちから失われてしまった翡翠の色を求めて、無意識に動いた指が彼の瞼の上に触れていた。柔らかなその下にあるべき色を思って、そっと息をつく。求めて、少し強くおしてみた。

…サガ、咎めるように低く名を呼ばれ、どこか疲れの色を滲ます声音はまるで怒っているかのようにも思え、そんなはずがないと判りながら思わず眉をひそめた。
それも全て、彼が目を伏せてしまったのが悪い。
表情を消した彼はまるで周囲の世界を全て排除してしまったように遠い。遠い、ヒト。
普段は表情をころころ変えてくれるからいい。翡翠の瞳でちゃんと映してくれるからいい。でも、そうじゃない今はとても、遠い。サガにはいつだって遠い、判らない。

彼のこころなんて一度たりとも判った事がない。理解できない。


やがて、ふっと彼が溜め息をついた。苦笑。
そうやっていつも誤魔化して、笑む。やんわりとこちらの口をふさぐかのように。

「俺の目なんかが欲しいの?」

君が望むならば、
続かれる言葉をサガが両手でふさいだ。翡翠の瞳がようやっとサガを映す。

「…サガ?」
「…………両の目を失った聖闘士など足手まといだ」

サガらしい答えに、彼がぷっとふきだす。そうだね、と優しく告げて愛おしいヒトを抱きしめた。春の匂いがする。彼の肩に顔を預けてサガは目を瞑る。続く言葉などききたくもない。
なのにこの両腕から逃れる術もない。

「それでも君が望むのなら、俺は全て君に委ねるよ」

(嘘つけ。この世界全てのものに、己を委ねてるくせに。)

さだめの風向きに逆らわず、その流れにまかせて。
そうして、そうやって。

でもそれでは。


(それじゃあ、おまえはいつまで経っても、おまえの望むところへ行きたいとは云えないんだな。)


何かを察したかのように、ぎゅっとより力をこめて抱きしめられる。その温もりを感じながら、時折ひとり苦しげに細める翡翠の色を思い出しながら、いますぐ此処から何処かへ行きたいとサガは願った。出来る事ならば、彼のそのやさしい手をひいて。

ひとつのようにぴたりと離れない2人に、風が静かにふいた。





風でなびいたあなたの髪が、わたしの頬をくすぐった (060530)