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「このまま、世界の果てまで逃げ出してみたいよ」 さらりとそんな事を口に出したのはあの射手座の男で。 それを、横でほおづえをつきながらうっかり聞いてしまったのは双子座の、カノンだった。 視界で、かもめが飛び去っていく。船はどんどん故郷と呼ぶべき地からはなれて、遠い東の島国へと…女神のもとへとむかう。はてない海の真ん中で、どこまでも深く蒼い海の上で。 波の下のもう1つの故郷をおもっていたカノンはその突拍子もなく呟かれた言葉に一瞬眼を丸くして、でもすぐに眉をひそめた。 「好きにすれば」 「できれば、星が綺麗にみえる地にいきたい」 ああ、いきたいなぁ。一度、全部忘れて。 呟いて、のびをする。海からの風が、涼しい。海面は星を散りばめたかのように煌めいている。いきたい、いきたいなーと延々1人呟いていた男はようやく口をつぐんだ。つぐんだと想えば、しばらくしてまた口を開く。 「ああ、サガの顔がみたいなぁ」 そう云って、今度はてすりによりかかってうなだれた。船旅にもう飽きてしまっているらしい。それにしても。 「まだ別れてから数時間しか経ってねぇよ、莫迦」 「でも、今すぐみたい。逢いたい」 「それじゃあ、世界の果てまでおちおち逃げていらんねぇな」 「そうかも」 そう小さく呟き、くすくすと肩をふるわせ笑い始めた。 そんな男に呆れて、カノンは空に目をやる。蒼い蒼い空。射るような太陽をつかむように手をのばしていると、横の男がまた小さく「逢いたい」と呟いたのがきこえた。 どうせなら、本人のいる前でそう云う事をいってやればいいんだ。 カノンとロス (051106) |