やさしい指先が額にふれて、ようやく眼がさめた。


近い距離に深い色合いの瞳をみて、驚きよりもさきに懐かしいと感じる。仮面を被らずとも鉄面皮と評された、でも美しい面立ちは静かに自分をみつめそして額にかかる前髪をなでるようにすく。視界の隅で銀の髪がさらりとながれおちていった。ああ、懐かしくて涙がこぼれそうだ。

「……シオン様…」

罪も忘れて、ただ幼い自分たちを拾い育ててくれたヒトの名を呟いた。呟きとともにこぼれおちた涙は頬をこめかみの方へつたいながれていく。
親を知らないサガにとって、彼は父のようであった。優しく大きな掌。神とはこの掌に宿っているのだと信じていた日々。サガにとって世界は、この掌だった。自分達の手をとって聖域へ導いた手、優しくなでてくれた手、与えてくれた手。奪ったのも、またこの手であったけれど。 どうしてこの感情を忘れていたのだろうか。やさしくて、あたたかくて、なつかしく愛おしい。何故。いつから忘れて、そして自分は。

「私は、」
「目覚めよ、サガ。お前にまた罪を背負わせる」

気付けば、シオンの後ろにはデスマスク達が立ってこちらを見下ろしていた。静かな瞳。ただよう雰囲気にはっとして、一気に眼がさめた。起き上がろうとすれば、体の節々が悲鳴をあげる。まるで引き裂かれるようだ、何かに。大切な何かが、はがれるような。
くっとうめき声をあげれば、その背をシオンがさする。

「相変わらず面倒のかかる」
「シオ…教皇、これは一体、」

「─────女神を殺すのだ、サガ。13年前お前が成し遂げられなかった神殺しを」


やさしく背をさする掌だけがその時サガの実感できる全てだった。



シオンとサガ 
ハーデス編が無性に書きたかったので。
サイト初期に書いてた「still, Human Beings Dream of Flying.」とかいう未完結連載の設定でした。