限りなくロスサガよりの話です。13年前。
君と僕の10title×10をお借りしてます。




進む事も、戻る事もできないから、いつも立ち止まって空を見上げていた。


01 ふたり

彼の声で、ようやく我にかえった。ぼやけた視界でとらえたのは黒と赤の世界。それが正しい色彩なのかさえ判らない。息苦しくて、吐きそうだ。ただ、声だけが届く。

「アイオロス、おい…莫迦!しっかりしろ!」

感覚はひどく麻痺していて、血の味が消えない口をどうにかうごかして、くくっと声を殺して笑う事が精一杯だった。が、どうやら、彼はそれがお気に召さないらしい。「捨てるぞ」とすぐ横から声がきこえる。ああ、彼が肩をかしてくれていて、今どうにか自分は歩けているんだなとそれだけが判った。あらい彼の息づかい。規則的でないそれで、彼も負傷しているのだろうと知る。また、口元に笑みを刻んでしまう。

「何故、この状況で笑える」

淡々と、静かな彼の問いに…、きっと眉間にめいっぱい皺をよせ内心俺を非難している彼を思って、告げた。

「生きているからじゃないかな」

彼に支えられて歩く。一歩、二歩。彼の震えた指。それでも毅然とした足取り。踏みつける、何が何だか判らない世界。静かで、冷たくて、寂しい世界だ。彼の眼にどう映っているかは知らないが。…それでも2人の体から流れる血の色だけは同じだ。
視界の隅に、彼の変わらず綺麗な金糸の髪の一房が揺れているのをみて。ああ、それだけがこの世界でただ鮮やかだと知った。



02 偽者の僕

この空よりも、もっと美しい空を知っていると彼は云った。

「あ、いた!!サガだよ、リア!」
「っ…サガ!!兄さんが怪我したって本当っ…?!」

きゃんきゃんと騒ぎながら、突然足にしがみついてきた子供達にぎょっとした。思考を空に巡らせていたのが不味かった、誰よりもヒトの気配に敏感であらねばならないのに。気付かれぬように小さく息を吐いてから、満面の笑みを子供達にみせてやる。

「ああ、大丈夫だよ。大した怪我でもないんだが、小宇宙の回復が遅くてね。ほっとくと完治もしてないくせに外に飛び出すから、教皇様によって宮に閉じこめられているだけなんだ…。あいつが大人しくしていれば、すぐに会えるから」
「………でも、今日は」
「大きな任務の後なんだ。しばらく休ませてあげてくれ。大丈夫、後から盛大に祝おう」

ぽんぽんと頭をなでてやればそれでどうにか納得いったようで、子供はこくりと頷いた。そうしていたら、今度は後方から神官に呼ばれ、双子座の仕事との事。さっき終わらせたばかりじゃないかと云えば、今日はサジタリアス様が不在故、等といわれた。ごもっとも。現在、黄金聖闘士は3人。1人は遠い滝の下。ただでさえオーバーワークなのに、1人でもかければ更にとんでもない。判っていて、押し付けたな…あのバカ兄貴。

「…ちくしょう、だからアイツ絡みの頼み事は碌なものじゃない」
「何か?」
「何でもない。用件は判ったから、もう帰っていいぞ」

まだ近くにうろちょろしていた子供達が、射手座に何をしてあげようかと楽しげに相談しあっている。あんな単細胞、皆で騒げればそれだけで満足しきってしまうのだから結局は何でもいいのだ。空が青いぐらいで、笑ってしまうような。
(馬鹿馬鹿しい。そんで、そんな事さえ兄貴は一生理解できないでいるんだ)

盛大に溜め息をついたカノンは、空をみあげる。ここよりも美しい空は知らないが(どうせ、どこまでも空は1つで繋がっているし)、自分は 兄が云わずにいる事をもしくは自身でも気付いていない事を知っている。兄は一生、その事実に眼を背け、偽りをいい続ける事も知っていた。だからといって、教えてやる義理もない。
「本当」の事など、この世にあっては生きづらいだけだ。自分達のように。



03 意外と単純な自分を知った日

眼を覚ますと、人馬宮のベットの中にいた。教皇に思い切りはたかれ気絶した事を思いだす。寝返りをうとうとして、思うように動かない体に息を吐いた。

(つまらない、だから、嫌なんだ)

がらんとした、何もない静かな世界。寝に帰ってきているだけの場所だからなんともつまらない部屋だ。何もない。こんな時、いつもたまらなく寂しいと思う。つまらない、寂しい、悲しい、人恋しい。あの鮮やかな色をもつ少年がきてくれればいいと思いながら、再び眼を瞑った。

だから、次に眼が覚めた瞬間、指先の温かさに驚いたのだ。



04 プレゼント

「……あのー、サガさん?」

つないでいた手にゆすられて、微睡みからようやく抜け出した。毛布に沈んでいた顔をゆっくりあげると、翡翠の瞳が丸くなってこちらをみてる。

「…やっと、起きたのか」
「夢かと思った」
「何が」
「いつも俺がどんだけいっても自分の睡眠時間削ってまで聖域中駆け回って大忙しな双子座のサガさんが、大した怪我をしたわけでもない俺の傍で手なんか繋いで、寝ちゃってるから」

サガが握っていた己の手をぷらぷらと揺らしながら、アイオロスがそうこたえた。一瞬むっとするが、事実は事実なので別の事を口にする。

「満足に1人で歩けないくせに、どこが大した事のない怪我だ」
「あー、でも、もう痛くないし」
「……お前は、すぐそう云うから、」
「云うから?」
「………何でもない」

君らしくないねと云って、俯きがちに小さく笑う少年をみつめながら、サガは繋いだままである彼の指をみる。未だに微弱な小宇宙しか感じられない指先。最初触れた時あまりの熱のなさに、思わず握り締めてしまった。2人の熱が同じになる事はないのに。

痛い時は痛いといえばいい。辛い時は辛いといえばいい。云うべきではない事は知っている、だって彼は聖域の黄金聖闘士だ。常に高みに、常に護る側に、常に英雄で。本来ならば重傷であるはずの事も、表には無事だ軽傷だと云わねばならない、肉親にさえも。それでも、せめて、同じ場所にいるはずの自分には云って欲しいと思っている。いつも。
笑って誤魔化すばかりの彼が、少しでも自分に言葉をこぼしてくれればいいと。
(…莫迦だ。私だって、彼に何1つとしていえてないくせに)

「……お前が云わないから、私も云わないんだからな」
「へ?」

先程よりは温かくなった手を握り締めたまま、静かに告げた。

「だから、お前がずっと笑っていられるように祈っておくよ」

一瞬きょとんとして、でもしばらくしてからいつものように彼が笑った。その笑みに、騙されるんだいつも。そして、同時に安堵する。彼が笑うと何故だか酷く安心する。騙されながら。

「サガ。祈るなら、誓いを」
「誓い?」
「頬にキスを1つ」

ふざけた口調に、本気じゃない事を気付く。そうやって誤魔化すのだから、嫌いなのだ。きっと、世界で一番狡い。悲しみも優しさも全てを包んで微笑む、その表情がそれでも好きだなんて。…冗談じゃない。誤魔化されっぱなしだなんて、たまらない。

繋いでいた手を思い切りひいてやって、近付いた頬に唇をおしあててやった。



05 僕、恋してる

まだ彼のぬくもりが残っているようなきがする自分の掌を天井へとかざしながら小さく息をはく。かなわないのだ、いつも。そして案外、質が悪い。ふっと気を抜いている時に限って突拍子もない事をしてくれるのだ。それでいて、何事もなかったかのようにさっさと出て行かれた。

頬に手をおいてみるが、未だに熱はさめないらしい。重傷だ。
振り回されているのは、一体どっちだか。

(…ああ、そういえば………俺、今日が誕生日じゃん)

プレゼントは、キス1つ。



end. (051130)
ごめん、ロス兄さん!これが今の私の精一杯!生まれてきてくれて、本当にありがとう。
主催者様、素敵な企画に参加させて頂き本当に嬉しいです。ありがとうございました。