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きっと、何度も、何度も、繰り返すのだろう。 その事だけを、知っている。 *** …どたんっ、 「あ、」 「……ん、今の音は…」 重たい何かが勢いよく落ちるような音が聞こえてきた方向…、目の前で「あーあ」と何かを察したかのように額に手をやる少年が守護すべき宮の方へガランは目をやる。が、別段変わったところはみられないいつもの殺風景な宮だ。(だとすれば、奥の…) 思考を遮るかのようにすぐ傍で、パンっと少年が両の手をうった。翡翠色の瞳がすまなそうに笑う。 「悪い。今日の訓練さきに行ってくれないか?」 「…いいが、何かあったか?」 「んー、ガランが心配するような事は何もないさ。リアをよろしくねー」 ひらひらと片手をふるから、ふっと苦笑を返すしかない。嘘はつかないかわりに、彼は時々言葉を秘める。大切な何かをそうやって守るように。だから、その手をパシンと自分の手のひらでたたいてやってからにっと笑い返す。 「待ってるからな、アイオロス」 いつだって、この友は自分に何もいわなかった。最後まで。 * 何処の誰だか、聞いた事もない。薄らと気づいてはいるが口にはしなかった。知ったその日が、きっとこの瞬間の終わりだと知っている。そう、この全ては神が気紛れに瞬いた一瞬の出来事でしかない。 「相変わらず、寝相が悪いねキミ」 冷たい床に散らばった髪を指先にからめながらそう呟くが、覗いている顔からは返事がない。ベッドからどたんと落ちたくせに毛布だけは離さずくるまっているその根性が凄い。ベッドをとっぱらって、今度からは敷き布団にでもしようかと考えてみる。だが、この少年の場合そのままころころ転がって、何処かへ行ってしまいそうだ。神経がやたら変なところで図太いのだ。 「綺麗な顔してるのに勿体ない」 そうやって、髪を絡めたその手で、打ったであろう頭のこぶをなでてやろうとした瞬間に、ぱちりと瞳が出逢う。見下ろす翡翠と、見上げる蒼。静かに目覚めた、蒼天の色。 「…なんだ、もう闘技場に行っている時間だろう」 「………君がまた怪我でもしてないかと心配で戻ってきたんだよ」 彼に触れられなかった指から彼の髪を離してやる。絡んでいた髪が床に戻っていった。 口で、はきりと云われた事はないが、彼は触れられるのを拒んでいる。 「悪かった」 笑み一つ浮かべる事なく、ただこちらを見ている彼の手がそっと動いて、頬に触れてきた。冷たい指先が夢か現かの境目を曖昧にする。本当に、自分勝手だなと思い笑う。 「……俺の許可がなければ誰一人として入り込めないこの宮の深奥に、初めて君が入り込んできたあの日…、血まみれの少年が倒れているもんだから驚いたよ。あの時も結局寝ていただけだけど、」 あまりの光景に、死人かと思った。 その日を境に、この名前も名乗らない少年は度々此処に訪れては勝手に居座るだけ居座っていつのまにかまた去るのだ。ふらりと現れては、消える。幻影なのかさえもう判らない。 「此処は居心地がいいから」 「何か噛み合ってないよね、台詞」 それさえ、もう慣れた。 彼の指が、笑った表情を辿っている。ただ見つめてくる瞳。そうやって見られると、まるで生まれたばかりの無垢な子供のような瞳にも似てる。青い、青い、色。だから、笑みが崩せなくて困って、やはり笑う。視界の隅にちらちら映るその掌を思わず掴んでしまいたい衝動を必死で押さえながら。 ふと、青い瞳の少年が小さく笑った。鮮やかな微笑。 「たとえば、もし、私が死ぬ時は…」 微笑は一瞬。すぐにその笑んだ少年ののばした両手が翡翠の瞳をまぶたの上からおさえつけてきたからだ。視界が闇に染まる。冷たい指が何もみせないまま、告げる。 「死んだ人間の心臓が止まってから24時間。24時間の間は、まだヒトの細胞は生きて、活動しているそうだ。つまり、まだ肉体は生は終わっていない」 だから、 「その時は、体に宿る細胞の最後の一つ全て死にきるまで、ずっと見守っていて欲しい」 話の脈絡などない。そうやって、やりたい事いいたい事だけいって、望みの全部俺に押し付けられれば満足なのだろう。全てきちんと叶えてくれる事をこの少年はすっかり判ってる。 「…じゃあ、ずっと最後まで抱きしめていてあげるよ」 こちらから触れてもいいかと彼に言外に問う。 一人きりで死なせないかわりに。 両目をふさぐ掌が少しだけ、強ばった。 目の前のてのひら (060624) いろんなルートを想定しても、結局同じ結末に辿り着くだけですけど。 エピGのサガのイメージがこんな感じでした。 |