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────どうぞ、貴方に やすらかなる夢路を。
スカイ ハイ
夢が覚めると同時に、窓の外の景色が目に入ってきた。
…いつかにも、鳥を追いかけていた時期があった。
「…っ、オイ!待てって云ってんだろっ、教皇!」 *** 聖闘士として認めてはいけなかったのだ。 それは女神を裏切る行為なのだと判っていた。 ────それでもあの瞬間、もう良いと思った。 反逆者となっても、もう良いと… 諦めたワケじゃない、捨てたワケでもない。 ただ……もうその想いがどうしょもうなく 自分の中で在った…だからだった。 彼が叫んだ。初めて。 己の中の苦しみを全て、何も飾るコトもなく、 有りの侭を口にし、素をみせた…笑顔に隠されていた全てを。 押しつぶされていた全ての激情を… 自分に、自分一人に全て叩き付けたのだ。 聖闘士としてあるまじき禍言を吐いて。 それでもあの瞳の色は変わらぬままだった。 美しい空の色は、あのまま自分を射抜いていた。 そう…それは女神である赤子を殺す瞬間でさえ、そのままで。 オレを惹きつけてやまない瞳に、 自分でやるくせに……涙を溜めて…。 オレの姿を見た時、彼は……笑ったのだ。 嬉しそうに…。 その笑顔は、今まで見たコトのない類の笑み。 憂いの一つもない澄んだ笑み。 彼は云った。 唇だけ動かして、嬉しそうに…。 これで救われるとでも思っているのかの様に…。 <…さぁ、女神を殺そうとした私を、殺せ> その瞬間知った。 彼が何を、真に望んでいたのか。 ───それは終わりだった。 自分の生の終わりを彼は望んでいたのだ。 この地上から解放されるコトを… その願いをオレに託していたのだ。 オレなら殺してくれるだろうとでも思ったのか。 笑顔は今まで見た中で一番幸せそうに…。 殺す──べきだったのだ。 それこそが彼の望みなのだから。 女神の聖闘士なら、殺すべきだったのだ。 そうすべきであったのだ……なのに…そのはずなのに…。 あの瞬間…それを、自分はためらったのだ。 そうして、オレは…反逆者の汚名を得た。 それは確かに正しかったのだ。 オレは…女神の意思に反したのだから。 殺せなかった…何故だか判らないが、できなかった。 此処でオレが止めなければ、更なる悲劇の連鎖を 生むと判っていながらも……できなかった。 深い後悔の念にかられながらも、決してもう振り返るコトなどない。 重たい足取りで、女神を抱え、 彼の元から離れるコトしかできなかった。 美しい暁の空の下、その下で自分達はまた出逢う…。 冴えた朝靄に包まれた中で見る彼は、どうしょうもなく綺麗だった。 …どんなに狂おうとも、綺麗なのだ。 どんなに変化を成そうとも、その魂の在り方は変わっていないのだ。 出逢った頃から変わらない、惹かれてやまないヒトのままなのだ。 苦しんで苦しんで、目前の光ばかりを血眼になってまで得ようとする… 強いくせに……でもそこなしに不安定な…そんな…。 彼は、告げた。 いつかの様に、己の中のモノを吐き出してくる。 でも目だけは、何度も殺せ殺せと訴えていた。 早く終わりにしろ、と嘆いていた。 泣いている事に、多分気付いていないのだろう……。 ───共に……在りたいと…… 彼をずっと、見ていたいと…───心底思った。 彼の笑顔を見たい。 あの狂いきった後の晴れ晴れしい笑みではなく…… 彼の心の底からの…きっと綺麗な笑みを…。 見たい。見たいのだ。 そう強く、何よりも強く思ったのだ。 他の全てを捨ててでも…。 失いがたい願いが、あってしまったのだ。 ─────もう…多分……きっと殺せはしない…。 一瞬、何処か遠くに行きたくなった。 誰もいない…二人だけの世界。 しがらみのない世界で、苦しむコトもなく、 彼が笑っていられるような……。 そこには、きっと今頭上にある様な美しい空があるのだろう。 それは、一瞬だけ見た夢でしかなかったが。 ***
どうして、あの瞬間、全てを終わらせてくれなかったのだろう。
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