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殺す機会はいつでもあった。 名目だって、ちゃんとある。 この双子はいつかどちらかが女神に仇なすと。 それは、前の聖戦の折り、敵の双子神が闘った双子座の男にかけた呪いであり予言であった。だから、双子座の男も呪いをかけた。その双子座の宿命を背負う双子はしかし己の力で呪いを砕くであろう。煌めく星々よりも鮮やかに、死に行く流れ星よりも烈しく、運命に惑わされながらも最後は自ら星となり…。二つの予言が、その幼い双子にはかかっていた。 不安の種を殺す機会はいつでもあった。 しかし殺す事はせず、技を教え、道を説いてやった。双子座の星もとに導いた。運命の傍に置いた。 もって生まれた宿業故に不安定な魂がそんな大それた事をやるようには思えなかったし、もう一人は確かに危険だが兄よりも真っ直ぐな光を宿していた。だから…。 そうやって、後回しにしているうちに、ついにその日がやってきてしまったのだ。 *** 胸に深く深く突き刺さった刃につたっていくのは、鮮やかな紅い血。 ぎりぎりと、それでもなお深く侵入していこうとする刃を、シオンはどうにか留める。抜き身の刃に直に手をそえた。 黄金の短剣を手に持つ男が、ハと嗤う。 「もうそれぐらいしかできないのか。聖域最強とうたわれた伝説の男が」 「……不変のものなど…此処には存在しないという事だ」 「では、神も不変ではないのだな」 紅い瞳が笑い、そのまま刃を無理矢理ひきぬいた。 掴んだ手からも血が飛び散った。紅く、紅く。 どばりと、地に紅の花が咲く。 「何も救えぬ無能な神など、そのうち地に堕としてやろう」 ふらりとよろめく、が、それでもそのまま意地で其処に立ち続ける。立つ事しかもうできなかったが。 薄らいでいく視界の中、紅い瞳が死に行こうとしている自分を見つめている。 紅い、瞳。 でも、あの少年と同じ眼差しをした…。 ……ああ、そう初めてあった頃から変わらない、 「ずっと、救いを求めていたのか。お前は」 それが、お前の見つめていた先だったのか。 気付かなかった。知らなかった。目に見えるものでしか判ってやれなかった。 紅い瞳の男が不意をつかれたような顔をしたが、すぐに眉をひそめる。 「馬鹿馬鹿しい。くだらない感傷だ」 「感傷か、これは」 「俺に、何を求めている?」 俺はただの救われなかった子供だ。 お前が、救わなかった子供だ。 勝手な予言によって、お前に殺されそうになった哀れな子供だ。 「………サガ、」 あの日見出し、此処へと連れてきたのは紛れもない自分だった。 「憎いか、私が」 「憎いよ。全てが」 あの日どうして見出されてしまったのか。ほっとけば、すぐに消える命だった。 親を失い、故郷を失い、ちっぽけな双子の子供は、でも女神像に出逢い、教皇に辿り着いた。 二重の呪いにかかった双子を見つけたら殺そうとしていた教皇のもとへ。 この世界は、とても生きがたい。苦しみの世界。 「それでも、私は───…」 視界が定まらない。揺らぐ、薄れる、消えかける。体中に力という力が入らない。終わりそうだと思った。全てが終わると。 世界は闇にまみれ、お前は其処で一人たたずみ生きてゆくのか。 それが、私の罪か。 あの日、前聖戦の…───女神を救えなかった私の。 「私は、お前を本当の息子のように愛していた」 これが、罪か。 「今更、そんな言葉信じると思うか?」 泣きそうな子供の目によく似た、紅い色。 お前は、そう、サガのだせなかった全てなのか。 「救えなかったくせに」 気づけなかった、罪。 このまま、此処にとりのこしていく罪。 「………サガ、」 「どうでもいい。お前の最期は俺が看取ってやろう。今日まで俺を生かしたせめてもの礼だ。早く、眠れ」 告げて、白い指がとんと、軽く押してきた。 押して、────自分の背の後ろにあるのは切り立った崖。 さよならと、呪われた紅の瞳がそう告げた。 世界が、巡る。 視界に最期に映し出されたのは、美しい満点の星々だった。 094. 血縁 (050122) |