act.サガ
ためらった。
何度も彼に告げようと…思ってはためらっていた。
言葉を紡ぐ為に開けた唇は、数度ゆるく開閉するだけで、音をなさない。
すぐ目の前に、
手をのばせばすぐ其処に彼がいるというのに。
なのに、結局、いつも「真実」を伝えられない。
(────彼の前では、せめて「自分」でありたいと思うのに、)
act.アイオロス
何故、ためらったのか。
女神に拳をむけた、それだけで理由は充分すぎたというのに。
自分は「そうしなければならない」と、考えるよりも先に躯にそう染みついているというのに。
それでも、黒髪の彼へ、拳をくりだすのをためたったのだ…。
代償は、己の命一つにて。
(────ああ、それでも……そう、君だったから、)
act.デスマスク
らしくなくも、ためらった。
いっその事、殺してやった方が良いのかもしれない、と
何度もそうは思って…でも、やめていた。出来なかった。
白と黒の世界の狭間で苦しむ彼を見て…
───別に、彼の為ではなく、見ているこちらが嫌になるから。だから。
不毛すぎた。全てが。愚かしく、哀しく。でも、殺せない。
(────自分もまた、過去に囚われている証。)
act.アイオリア
どうして、ためらったのか。
もう全てを忘れ去ってしまいたいというのに…。
なのに、何故か、これだけが最後まで手放せずにいた。捨てきれない。
兄と自分と、サガが映っている写真。
早く手放してしまいたいというのに、何故か出来ない。
(────彼を恨んでいるはずなのに。)
act.カミュ
どうしょうもなく、ためらう。
「冷たい」ものばかりではなく、
「ぬくもり」というものも教えてやりたいと思うのにいつもできない。
誰かを優しく抱きしめ、ぬくもりを感じたいと思う事は、弱さ故か、甘さの為か。
そうではないと…いつかにあの射手座のヒトが云っていた。
その温もりこそが、「女神」の真理の全てなのだと…。
でもいつも子供達へとのばした手は、触れる事のないまま終わる。
冷たい大地しか教えてやれない。
(────だって、私自身がそれを上手く知り得ない。)
act.女神
ためらいなどなかった。
たとえ、いつかこの喉もとへと返ってくる刃であっても…。
それでも、守ろうと思った。
今、女神像の前で途方にくれたかの様にたたずむ青年が、
無意識のうちに「そう」望んでいるから。
牢の中にいる弟を守って欲しいと。
純粋なその願いをきいたから、だから、海にのみこまれていこうとする彼を守ろうと…そう思った。
(────私は、ヒトの祈りによって存在するものなのだから、)
ああ…そう、貴方たちは判らなかったんですね。
075. ためらい