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070. 永遠に 簡単に終わるとは思ってはいなかった。 相手は、ひとくせもふたくせもある…風の様に掴めぬ男だ。 だから、たとえ今殺しても、何らかの反発はあると思っていた。 なのに────これだけは予想外だった。 思えば、いつも予想外な事ばかりする男だったのだ。 遠く闇の彼方から、一つの命が燃え尽きたのを知った。 その直後…胸をえぐられるかの様な痛みを覚え、 さすがの彼もたまらず玉座から崩れ落ちる。 「────サ…、教皇っ!?」 「……とんでもない奴だ、アイツは…」 支えようとするアフロディーテの手を振り払って、彼は胸を押さえながらも立ち上がる。声は地を這うかの様に、ひどく低い。髪は乱れきり、眼は燃える様な紅い色を放っていた。顔は憎しみの表情に彩られている。彼の身を包む小宇宙は、殺気だち…しかし不安定に揺れ、その強大さから空気がぴしぴしと音をあげた。 「…………素直に死ねば良いものを…」 荒れる息をとめたくて、法衣の上から胸にきつく爪をたてた。でも、とまらない。留まらない。あふれだす想いが止まらない。喉につまって苦しみもがきたくなる程に、それは彼の心中であふれかえっていた。憎しみのような苦しみのような悔しさのような切なさのような、愛おしさ。渇望。 どこかから、誰かの泣き声がする。嘆きの声。わめき、苦しむ…蒼い瞳の意識。 それが、ずっと赤い眼の彼をも苛み続ける。 ずっと────かの人を反逆者にしたてて以来。 「……アイツは……自分の命と、引き換えに………奪っていったのか…全てを……」 「………全て?」 「アイツは…………自分を、アレの中で永遠の存在としてしまった…」 これでは全てが台無しだった。 紅の意識は、蒼の意識を苛むもの全てから守る為に、うまれた。 もう苦しまない様にと、無意識の中からうまれた。なのに。 大切な人の喪失という衝撃によって目覚めた蒼の意識は今、 ───その黄金の翼に、囚われた。縛られた。 もう寝てもさめても忘れる事は出来ないだろう。 何年月日が経とうとも、その影は消える事はないだろう。 ずっと……背を追う影法師の様に付きまとうのだ。 あるいは、けっして追いつく事のできぬ光として。 殺せば、永遠に忘れさり………蒼の意識は穏やかな闇の世界で眠り続けるだろうと…そう思っていたというのに…。 「死んで…『サガ』の永遠を手に入れたか…」 最後の最後で仕掛けた賭に、紅の意識は負けた。 そして、紅の意識の中では、黄金の翼をもつ青年は永遠に、 勝者として刻まれ続けるのだ…。 end.
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