「カノン、おはよう」
自分が微笑めば、彼も微笑む。
穏やかな、朝の始まり。
「朝食が出来たよ。一緒に食べるかい?」
首を傾げれば、彼も首を傾げる。
でもそのうち、こくんとうなづいた。
「今日はね、聖域に行かなくてもよくなったんだ」
パンを食べる手を止めて、そう云えば、彼もこちらを見た。
「だから、今日は一日中、一緒にいられるね」
彼も、嬉しそうに笑った。
弟が嬉しそうだから、だから自分ももっと嬉しげな顔を見せた。
「じゃあ、今日は何しよっか?」
小首を傾げる。弟も考える様な素振りをする。
「カノン、ねぇ、カノン───どうする?」
でも返事は返らない。ただ、優しい笑みだけが見える。
「……カノン…カノンってば…」
その頬へと、サガは手をのばした。
指がつぅ…と滑る。
ぬくもりはなく─────冷たかった。
「…冷たいね、カノンは…」
自らの頬も、そこへ寄せ、彼に自分のぬくもりをわけてあげようと思った。
でも、出来ない。
ただ冷たいばかりのソレが、頬を触れるばかり。
冷たい…無機質な…。
「………ああ、そっか、カノンは、
もう、死んじゃったのか」
だから、冷たいんだよね。
云って、頬を離した。
いくら、ぬくもりを送ってやっても温かくならないソレを…
サガは、ふりあげた拳とともに、壊した。
散らばる銀の破片。きらきらと宙に舞う軌跡。
─────そっくりな自分を映す鏡を、サガは割った。
「今頃、海の中で冷たくなってるのかな…カノンは」
破片で怪我した手を手当する事もなく、サガはただずむ。
サガの血が、下に散らばった破片の上にぽたりと落ちた。
「さよなら、カノン」
065. 鏡
片翼を喪って、狂った片翼。