兄さんの遺品整理していたら出てきたんだ。


そういってアイオリアから渡されたのは琥珀色の石が使われた万年筆だった。


「…というか…、もう遺品じゃないんですけど」
「兄さんが死んでいる時に発見したんだ。遺品だろ?」


いつからこんな可愛気のない子になってしまったのか。
13年という時の長さを嘆きながら、アイオロスは溜め息をついた。
そして、万年筆をしげしげと見やる。


「……見覚えないけど、多分サガからの誕生日プレゼントだ、これ」


そのままベットに倒れて、光に透かしてみた。
光を浴びて、それは黄金色(こがねいろ)にキラキラ光る。


「…見覚えないのに、何で判るんだよ」
「サガの小宇宙の名残がこびりついてる。もう微々たるもんだけどさ」


13年前…、そういえばあと数日で自分の誕生日が来るはずだった。
サガに追いついて15歳に。
アイオリアが眉をひそめて告げる。


「……兄さんが死んだ後に、置いていったのかな」
「律儀だから、きっと」


彼の事だから一週間前にはすでに用意してあって…、
でもその後あんな事があって渡せなくて……手元にあるのも嫌だから、
こっそり宮に置いていったのだろう。
誰ももう祝えなくなった誕生日を、彼だけが祝ってくれたのだ。


「サガ、未だ目覚めないんだって?」
「……あいつ、低血圧だからなー」
「兄さん!」
「大方、過去の夢にでも捕らわれて身動きできないんだろう。
幸せな過去も、辛い過去も、全部俺 あいつに預けてきちゃったから」


怪訝な顔をする弟にアイオロスは苦笑した。
判らなくて良いんだよ、と云って。


「あいつが、その「思い出」を重荷だと呼ぶなら捨てても構わないと…俺はそう思ってる」
「逃げてるだけじゃないか」
「逃げたのは俺だ。だって、全部捨ててきたんだ、あの日」


幸せだった思い出も、辛く苦しい思い出も、
どちらも両方大切に抱えたまま13年間生き抜いたのがあいつだった。
捨てた方がもっと楽に生きられただろうに。
───忘れてくれても良かった。

琥珀色の思い出は、今も未だ彼が大切に抱いている。


「……そんな事したら、兄さんの事も忘れちゃうじゃん。いいの?振り出しに戻るよ」


琥珀の万年筆を指でくるりと回しながら、アイオロスは少し唸って、でも答えた。
13年前、この万年筆を選ぶ少年の姿を思い描きながら。


「その時は、また最初から恋でもするさ」


この万年筆をくれた彼に。



049. セピア (050303修正)
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