自分の血なのか、相手の血なのか、もうそれさえも判らなかった。
不意をつかれたとはいえ、不覚であり、自らの失態だ。
たとえ、その不意をつかれた「瞬間」が、蒼い瞳の意識の方であっても。

─────不意をつかれた。

腹からにじみだすのは禍々しい程に赤い血。
漆黒の法衣ではみにくいのだが、それでもソレは紅。
白い顔にも、綺麗な髪にも、手にも…飛び散るのは血。
そのどれぐらいが自分ので、
どれぐらいが、今、足下で伏している男の残骸である者の血なのか。

血の色だけが、皆等しく同じ色なので判らなかった。
(そう、神が等しくヒトに与えたモノは血の色だけ。)

「避けようと思えば、避けられたはずだ」

とまらない傷口に手をあてながら、赤い瞳の男は、眉間に皺を寄せる。吐かれた言葉は、床を這う様に低く…苦しげだった。
じくじくと…腹の傷が痛み出す。烈しく痛みだすソレを腹立たしく思い、法衣の上からその傷口をきつく爪をたてた。

「…いや、お前が…黄金たるお前が避けられぬわけあるまい」

痛い。痛い。
その、いたみ。
コレもまた、神が人間に平等に与えた感覚だ。

いたみを感じるということは、生きている証だ。
そう、まだ生きているのだ。

このいたみが続く限り、自分達はまだ生きているのだ。


「………お前は、死にたかったのか…」


────このいたみは、でも未だ生きている証。






046.いたみ