そこには、闇と、二人しかいなかった。

「君は、誰?」
「君こそ、誰?」
「何で同じ顔してるのかな?」
「何でかなあ」
「君は、僕なの?」
「僕は、君なの?」
「…僕が二人いるわけない」
「ああ、じゃあ…きっと、」

手をのばす。その掌に、もう片方も己のソレを重ねた。
手が、重なり合う。
光一つとない闇の中、触れた指先だけが、目の前に相手がいるのだと判らす。

「僕たちは、一つなんだよ」

小さな指先が、離れない様にときつく絡まり合った。








「また厄介なものを拾ってきたな」

扉を閉めた後、教皇は低くそう呟いた。

「厄介ですか?確かに、少し互いに依存しすぎてるかとは思いますが……幼いうちだけでしょうし」

横で教皇の呟きを聞き止めた神官がそう告げる。扉の中にいた幼子達は、部屋の隅の方で互いに身を寄せ合いながら、威嚇するかの様にこちらをにらみつけてきた。
神経質な子猫と同じ様なものだと、神官は思っただけだ。
震えた腕で互いが互いの体を抱きしめていたのも、突然こんな環境にきて恐ろしくなっているだけだろう。その腕を離そうとすれば、烈しく抵抗するのも。

「判らぬか?」
「何を、ですか」

「……あの双子。二人とも双子座の宿命を背負っている」

溜め息まじりに答えられた言葉が、やけに廊下に響いた。
神官が眼を見開き、教皇を見る。

「…………同時期に、一つの星の下…二人の聖闘士が出る事など、」
「あってはならん」
「不吉の前触れでは」
「だから、厄介だと云った。それに…あの双子は、」

教皇が次の言葉を紡ぐ前に、でも、先に後方の扉が勢いよく開け放たれた。
中から慌てて出てきたのは、双子の相手役にといれておいた女官。

「きょ、教皇さま!!二人の姿が、目の前で突然、消えましたっ…!」
「────なっ…?!」
「うろたえるでない。あやつらはすでに小宇宙が操れるだけだ」
「テレポートを?この聖域内で?」
「短距離ならば、あの天秤座の男にも出来る。兎も角、お前達は、すぐに探しに行け」

女官達に行動を促し、去らせた後、教皇は二度目の溜め息をついた。

「……教皇、」
「これで判っただろう。あの双子は厄介だ。世界に自分達二人しかいないと思ってる」

忌々しそうに告げられた言葉の意味が判らず、それが顔にでてしまったのか、教皇が更に言葉を付け足した。

「あやつらは、我が侭で質の悪いガキだと云う事だ」

互いしか、愛せない。







聖域の者に見つかった時、自分達は、小さな村にたてられていた「神」───女神像の後ろに隠れる様にしていたらしい。その前の事はよく覚えていない。ただ、横には、同じ顔をした同じ存在がずっと傍にあったという事だけは覚えている。それだけ、だ。

そして、今、二人して、聖域の女神像を見上げている。

「…大きいね」
「大きいね」
「こんなに大きいなら、きっと、世界全てを救えるんだろうね。あの大きな掌で」
「全部、守ってくれたら、いいね」
「いいね」
「うん、そうだったら、いいね」

そうして、つないだ指先に力を込めた。
離さない様に。離れない様に。
指先にこもる力と、ぬくもりだけが全てだった。
互いが、そこに今確かにあるのだと判る、証だった。
指先を、きつく、絡め合う様に、握りしめた。

それが、全てだった。







「双子座の聖闘士は一人で充分だ」

例の双子を見つけたという報告をきき、最初に教皇が発した言葉はそれだった。

「弟の方でいい。二人は、いなかったという事にすればいい。弟の方だけ、その存在を隠させろ」

双子などいなかった事にすればいい。
一人だけなら、ソレを誰が双子だと思うか。

───その日から、双子は双子でなくなった。







離れない様に。離さない様に。
きつくきつく指先をからめて、握りしめあう。
ずっと、二人でいられる様にと。

触れ合った指先から溶け合って、一つになれれば良かった。





015. ゆびさき