来なければ良かった。
来なければ、良かった。
此処は、ひどく息苦しかった。

だから、サガはその部屋の壁一面に、青いペンキを塗りたくった。
青い青い───彼が愛した空に近い色を。
彼が飛び立った大空に似た色を。
狂ったかの様に塗りたくる。
乱暴に塗るサガに、べちゃりとペンキが跳ね返ってくる。
サガの体をも、青い色に染め上げる。
それでも───気がふれた男は、その部屋を一面の青にした。

「…………お前の愛した色だ……これで満足だろう…?」

そこは、人馬宮の私室。
主人の名残深きその場所を、主人のいなくなった今、サガはその壁一面を青にした。
───遠き日、二人で見上げた青空の世界。

そこは時が止んだ部屋であり、病んだ部屋。

007. 病室