001. 涙




「変なの。泣きたい時は、泣けば良いのに」


云えば、彼はようやくこちらを向いた。
濡れて雫の落ちる彼の長い髪は、とても重そうに見える。


「泣いてなんかいないよ」


頬に、体にまとわりつく髪を払うコトもなく、彼はそう云って、ふっと笑った。


「泣いてなんかいない」


それは、今 天から降る雨の雫なのか、
それとも涙なのか…どちらともつかぬものが彼の頬をつたっていく。
普段よりも頼りない微笑をみせる本人は、それを涙とは云わなく。
ただ、頬をすべっていく雫はとても綺麗。


「………サガ…、」
「私は、泣かない」


ふりゆく雨を見上げながら、彼は呟いた。ちいさく。



「そんな弱さなんていらない」



「……そう、」


だから、もう何も云えなくて…。
仕方なく一緒に、空を見上げた。
雨降り行く天を。



────だから、せめて、
彼のかわりに空が泣いてくれれば良いと思った。





end.