切り離された小さな痛み



触れて、いつも後悔する。
触れれば触れる程、何か大切なものを見失っていくきがするからだ。


***


「やめておけ」

紅い瞳の男がそう告げた。
丁度、握り締めた拳をゆるめ、構えを解こうとした時だった。
月が美しい夜だった。

「何故、ためらう?殺そうとしない。判っているだろうに」

拳をかまえて、討て。
────何故、出来ない?

「殺さなければ、お前が死ぬだけだ」
「…何故だっ…」

手は震えるだけで、拳をつくろうとしない。世界は、ただ静か。

「何故っ……俺達は、こんな道しか歩めなかった……!」
「お前がそれを問うか」
「俺は…選んだつもりなどない」
「運命といえば、納得するか?」

するわけない。
ああ、そう…何を云っても今更何一つ納得できる理由にならない。
ただ、自分は、この現実を今すぐ消したいだけ。

「私たちは所詮、触れ合ってはいけない。共に歩む事すらも許されない」

何故だと思った。世界は、何故。
別に、何も特別な事など要求したつもりなかった。
ただ、共に生きたかっただけだ。ただ───。

ただ、彼とともに女神を守るのだと…。
(お前が云ったのではないか)

「どちらかが死ななければ、どちらとも死ぬ」

共に生きる事など出来るわけなかった。互いに。

紅い瞳の男が、黄金の短剣をこちらにむけた。
紅く濡れた切っ先が。

「………それが、女神の御意志か」
「女神などの手に委ねはしない。これが、私の意志だ」
「そうか」

それが、全てか。

「俺は、お前と共に生きたかったよ」

射手座の少年は拳を解いて、最後に微笑んだ。



(050214修正)