「痛い」
君が触れた部分が、痛い。


じくじく、どくどく、ぎしぎし。


触れてくる男の指。頬。唇。顎。首。鎖骨。
あがって、耳元から下へ、髪をなでた。


じくじく、どくどく、ぎしぎし。


いびつな音をたてて、痛がる。
随分昔に癒えたはずの傷も、今新たにできた傷も、
彼の瞳に射抜かれた瞬間から全てあの日のように痛み出した。

あの日から、痛みなんて麻痺してしまったと思っていたのに。

傷つけたって何も感じられなかった。
彼があの日この胸に刺していった楔のが痛くて痛くて、他の痛みが判らなくなった。


でも、また、うずき出すこの痛み。


「………やめてくれ、」


うめくような言葉に、彼は悲しそうな顔をするのみ。
触れてくる指先よりも、何よりもその顔が嫌だ。
その瞳が、嫌だ。

その瞳があの頃、私を苦しめ苦しめ壊したのだから。
その瞳があの日、私をこの世界に一人残していったのだから。


「痛くないよ」


告げる声はただただあのころのように優しい。
微笑んで、そして、抱きしめてきた。


じくじく、どくどく、ぎしぎし。


体全身が、痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い…!



────やめてくれ



叫んだはずなのに、言葉にならなかった。
ただ涙があふれて止まらない。
痛みを訴えるかのように、流れる。

痛いと、嘆く。

触れてくる指が怖い。
触れてくるぬくもりが怖い。
みつめてくる瞳が、嫌い。

まるであの日のような血まみれの指が触れてくるように錯覚する。
あたたかな温もりがあの日のようにいつ失われるのかと怯える。
みつめてくる瞳が、────あの頃のようで懐かしい。



ねぇ。

こんなにも私の中に貴方の残したガラスの破片が残っていた。
そしてその破片は今も傷をつけ、苦しめるのだ。私を。

貴方自身がその傷を上から踏み荒らしていくのだから。
──────癒えるわけない。



「いたいのいたいの、とんでけ」



何も判っていない彼の優しい声。
…この痛みは何処へとんでいけるというのだろう。
せめて、そのまま彼の胸の中へ還ってしまえばいい。

そう願って、彼の背にきつく爪をたてた。



(050214)