僕が守るから。



…ふと目覚めれば、横で眠っていたはずの彼の髪が、黒く染まっていた。


「………サガ…?」

夜の静寂を破らぬ様に、小さく小さく囁いてアイオロスが子供の名を呼んだ。
呼べば、まるで最初から起きていたかのようにサガの両の眼がぱちりと開けられた。 同じ一つの布団の中、至近距離で見た彼の双眸の色は───赤。
血の様に真っ赤な色の瞳が、星一つと届かぬ闇の中だというのにはっきりと見えてしまう。

…サガの髪はさらさらとした綺麗な金で、その瞳は冬の空のような色をしていたはずだった。
見間違いにしては、髪の色はまだしも、瞳はどうしょうもなく赤すぎた。
未だ自分は夢の中にいるのだろうかと、アイオロスは一瞬思う。

「…サガ、泣いていたの?」

髪の色も瞳の色も違う、でも友人とそっくりな顔をした子供は、こちらをただただみつめてくるばかりでなかなか口を開かなかった。赤く大きな瞳が、こちらをじっと見つめてくる。

「────サガ…?」
「…夢を、みた」
「え…?夢、」
「夢、………みんなが、わたし一人をのこして置いていく夢だった」

告げて、赤の眼が一度闇の中に消えた。両眼をきつく閉じたサガは、小さな小さな…少し掠れ気味の声のまま言葉を紡いでいった。

「いつもそうだ。わたし一人がとりのこされる」
「…………サガ……」
「やみのなか。わたしは、一人きりだ、ずっと。これからも…」
「……これぐらいくらい中に?」
「ちがう、もっとみえない。光がない何もみえないかんじない闇のなかだった。こえもだせなくて、じぶんがどこにいるのかもわからない…死んでいるのか生きているのかさえわからないぐらい闇がふかくて…」

私はその中で、ずっと私が何処にいるのか捜していた。
生きているのか、死んでいるのか、捜していた。

「……みつかったの?」

サガはふるふると首をふる。空気が静かに揺れていた。

「みつからない。くるしくなってどうしようもなくなったとき、…アイオロスに名を呼ばれてようやく眼がさめた…」

アイオロスは、今のこの闇の中、彼を探してみた。手をのばせば、すぐ届く程近いというのに、みえなかった。

「……いつか、このからだも…わたしも……きえてしまうんだ」

誰にも、見つけられず。
一人取り残され、名もない深淵の闇の中で。

そう、サガが思った時だった。

「でも、サガはここにいるよ」

サガが目を開ける前に、アイオロスがサガの手をさがしあてて握り締めた。温かなぬくもりが、サガの冷たい手を包み込む。ぬくもりに、掴まえられる。

「まだ、ここにいる。きえてない。きえないように、俺がこうしてずっと手をつないでる」

だから、

「あんしんして眠って。こわい夢みたら、またオレがサガの名を呼ぶから!この手をぜったいはなさない」

だから、もう一人でさがさなくていいよ。

赤い瞳が、不思議そうにアイオロスを見てきた。こんな暗闇じゃ判らないだろうと思いながらアイオロスは微笑み返した。笑って、告げた。

「それに、ぜったいオレは、サガをおいていかない」

そう告げた声に、サガはふ…と微笑んだけれど、アイオロスには見えていなかった。
その夜、2人はずっと手をつないだままだった。


次の日の朝、横で眠る子供の髪は漆黒ではなかった。



僕が守るから。 (060903修正)
子供時代とか……