ふたり




十三年間。
十三年間、ずっと。ずっとだ。

ずっと、一人で夕暮れをみていた覚えがある。
沈み行く光の塊が、何かに思えて、飽きもせずずっとソレを見ていた。いつも、いつも、十三年間、ずっと。空が終わっていく景色と、闇が支配する景色が、全てだった。
それだけが、あのころの自分の全てだった。

そして、今。

目の前を覆い尽くすのは、光。復活の、朝陽。
そして、その眩い光を背にたつ青年。
今、目の前にひろがる景色は、ソレだけだった。


「私は、ずっと一人だった」

震えているかと思った唇は、でも震えてはおらず、予想していたよりもはっきりとした言葉が唇から放たれた。紡がれた。
目の前の青年は、記憶の中同様、あの圧倒されるばかりの陽に似合う微笑をしている。

「私は、ずっと一人きりだと…ずっとそう思い続けていたんだ」

ふと、今私はどんな表情をしているかきになった。彼のように笑えているだろうか。あの日のように笑えているだろうか。出来損ないの笑顔でなければいい。

「でも、ある日、お前が私に云ってくれた…」

あれは未だ、黄金聖闘士になりたての頃。
気を張りつめていた自分に、彼はふと何気なく云ってくれた言葉。

「二人だから…、二人だから何も恐いコトはないと……二人で女神を、世界を守ろうとお前は云ってくれた……」
「───そうだね」
「お前が、そう云うから…私も、その時信じられたんだ……二人なら…、二人だから、大丈夫だと…私は今、一人じゃない…二人だからと。ひとりきりで生きていこうとしていた私にむかって、お前が」

なのに。

「………………お前が、…また私を一人にさせたのか…」

二人の今いる場所は、教皇の間前。
まわりの石畳には、同じ黄金聖闘士の仲間たちが伏していた。血の海の中。
未だ立ち上がっているのは二人だけだった。
でも二人は二人であって、「ふたり」ではない。
今、互いに一人と、一人。
天界側の聖闘士と、女神側の聖闘士。
互いに一人、一人。
サガは、女神側の黄金聖闘士の最後の一人だった。

「最初に、二人を二人でなくしたのは、でも君だった」
「……ああ、そうだ…。私が最初に裏切った」
「裏切りという点でなら、オレは最初から裏切っていたさ、女神を…君をも」
「…………何故……、どうしてお前だったんだ…」
「サガ」
「…………どうして…私達は……」
「サガ」

どうして、そんな優しい声で呼ぶのだろうか。

「サガ」
「──私は、お前を、此処で……倒す」

────だから、どうか、あの頃の様な笑顔を見せないで。

「サガ」
「アイオロス!」

決意を込めた声で、相手を呼んだ。
空の蒼よりも深く、でも尊く澄んだ瞳が、碧の瞳を見た。
碧の瞳も同じ様に、笑顔の中に、それでも真っ直ぐとした光を抱いている。

ああ、その光が好きだったのだ。
相手を倒す為に、全身全霊の技を放った瞬間、サガはそう思った。

二つの、強大な力が、互いに譲らずぶつかりあう。

─────大空に、一筋の閃光が駈け上っていった…。





「……二人、二人と云いながら、でもそれは結局は、一つじゃないんだ…。一つになれるわけない。同じ道を歩めるわけない。違う一つ一つの個体同士なんだよ……」

なくなった腕の部分をおさえながら、彼が静かに呟いた。血が、ぽたりぽたりと地に落ちていく音が聞こえる。サガはゆっくりと眼を開けた。
かすむ視界の中に映ったのは、眩い陽。
闇を一掃し、世界に光をあたえる強烈な存在。
それを背にする青年…先程よりも顔はより近くにあった。だからこそ、かすんでいてもその顔がよく見える。 ああ、なんて光の似合う男なのだろう。

───彼は、笑っていなかった。泣いていた。

「…………サガ」
「…それでも……、」

十三年前…自分もこんな顔をして、彼の死を看取っていたのだろうかとふと思った。
あの時、彼が云った言葉が、思い出される…。
あの時、彼は───…。
ああ、そうこの言葉を云ったのだった。


「それでも、お前は、私の……親友だよ……」


彼がひどく驚いた顔をする。
そんな彼の顔を見て、サガはふっと淡く微笑んだ。
微笑んで、そして、眼を閉じた。
ゆっくりと、両目を。

ずっと焦がれていた朝焼けの景色と、彼を最後に見つめながら。


「────おやすみ、サガ」



end.

いつ書いたのか覚えてないです…これ…。
100題の「鼓動」→ラストソングの最後→「ふたり」に繋がるループ。