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数世紀前は全世界を支配していたというこの『聖域』も、今ではただの時代錯誤な古代信仰の名残の場所でしかない。老いた神官、女官が数名と、そして昔と変わらず黙々と務めをはたす「教皇」。教皇といっても地元の人間くらいしか彼を絶対視してない。ただ古い信仰のくさび。 神殿では今日も彼の日課である聖書の朗読会が開かれている。常ならば数名の老人しか集わないはずなのだが、 一番後方の、一番端に、ひとり離れて座る少年がいた。萎びたような世界にはあまりそぐわないはずなのに、しかし最初からそこにいたかのようにしっくりと馴染んでいる。懐かしささえ覚えるような何か。 そんなわけあるはずがないと思い、カノンは首を横にふる。そうしないと、過去の何かに取り付かれてしまいそうだった。 「おい、てめぇ。寝るなら来んじゃねぇーよ」 「…カノン」 朗読が終わり、サガが老人達の話をきいている間にカノンは少年の座る長椅子を蹴りつけた。しかし少年はさして表情を変えず、同い年のカノンに笑いかけただけだった。 「心地良くて、つい」 「何でも良いからもう来んなって言ってるんだ。目障りだ!さっさと聖域から失せろ!」 「なんで? 一人で闘うより二人の方が良いだろ。古に失われたはずの聖衣を扱えるのは、現聖域に俺と君だけなんだから」 「大体…それがおかしいんだ。いつ何処でその力を手に入れたんだか教えろ。12の星座は神を封じる為に全部滅んだはずなんだ。スペアを持つ双子座を除いてな」 「あるんだからしようがないよ」 「てめえなぁ…!!」 「こら、カノン」 涼しげな声とともに、カノンの頭部に掌がぽんと置かれた。法衣のままのサガである。 「お友達にそんな言葉遣いをするんじゃない」 「友達じゃねーし!」 しかし、小さい頃から年の離れた弟を親がわりに面倒みてきたサガである。わめく弟の頭を片手でなだめつつ、弟の友達には神の如くと称される笑みをみせた。 「不器用で友人は少ないんだが、根は良い子だからこれからも仲良くしてやってくれ。名前は…確か、」 「アイオロスです」 (…それが一番やっかいなんだよ!) ───かつて、サガの横には同じ名前の青年がいた。 婚約までした彼は、ある日を境に姿をみせなくなったのだが、 ちょうどその一年後、同じ名前の少年が現れたのである。 「過去の時間から来た」 そう告げて、微笑んだ少年。 サガに絶望と喪失感を押しつけた上、記憶までさらっていった青年をカノンは殺してしまいたいとすら思っていたというのに。 過去の人間であるという少年アイオロスは、サガの顔をみる度に、少しだけ寂しそうな笑顔をする。 これでは誰も救われない (080216) |