※恨みの念で多くの人間を殺してしまった代償によって、じごくしょうじょの任を負った人外の者=サガ。その昔、人間の頃のサガを殺した少年の、幾代目かの転生者=ロス。サガに仕えてる妖怪=年中の三人。…とかいうそんな感じ。





「この世界は、因果応報なんだって」


夜の世界でしか生きる術をえられなかったサガは、アイオロスのその手を握りしめる度に、遠く隔てられた日射しの匂いを強く思い出す事ができた。冷たい社の中で生け贄として朽ちていくだけであったサガに、村人誰にも知られずこっそりとアイオロスが毎晩食事を運びにきて、今年でもう7年の歳月が過ぎた。
幼い少年の掌はいつのまにかたくましい青年の手へと変化している。

「因果応報?」
「うん。悪い事をすれば、巡り巡ってそれは全部自分に返って来ちゃうって事。縁は、巡るんだ。業を知らない魂はない」

って、全部、おじじの言葉だけど。
そう告げて、くしゃりと笑うその顔がサガは愛おしくて大好きで(宝箱にしまいこんで、隠してしまいたい程)だから、アイオロスの為だけにサガは笑った。精一杯笑った。笑って、笑って、このしあわせが少しでも、彼に伝われば
────それで、良かった。自分は、笑顔が下手だから、上手く伝わっているかそれだけがいつも不安だった。


そんな彼との夜も、15の春を迎える前に終わりを告げた。
サガを8年も生かしたのが彼なら、また、サガの生を終わらすのも彼であった。このあふれんばかりの愛おしいという感情を与えたのも彼であり、殺してやりたい程憎いという感情すら芽生えさせたのは、彼だった。
15の歳の冬の終わり、アイオロスのその手が、サガを殺した。







じごくつうしん───殺したいほど憎い相手の名前を書き込めば、じごくしょうじょがかわりにその人を地獄に流してくれる。
冬があれから幾度となく巡り、春が幾度も通り過ぎた先で、密やかに伝わる都市伝説。憎い相手を、殺せばいい。


今はその赤い瞳がみえない。人間とは思えない程、感情のない冷たくも美しい容貌は、いつだって冷静に人の世を眺め続けてきた。平等に求められれば応じ、裁いていった。自分の感情を少しでも介した事などなかった(それをいうなら、化け物である自分達の方がよっぽど感情論で仕事をしている)。

一向に目を覚まさない主を囲みながら、デスマスク達はためいきをついた。主の拾われ式神である彼らは、主が命じない限り勝手な行動をとれない。同時に彼らには、地獄に流されかけた人ならざるモノ達である自分を拾ってくれたサガにそれぞれ恩があり、だからこそその場を動けなかった。
だからこそ、先ほどのサガのあの姿に三人は驚きを隠せなかった。

「幾百年と仕えてきたが、サガのあれは初めてみたや」
「デスマスクが見てないのなら、余計私たちは知らないな」
「どんな依頼にも嫌な顔ひとつせずやり遂げてきたというのに、今更……封じていた感情を解くだなんて」
「今まで、感情を殺してこの役をつとめていた方が驚きだけどな。俺だったら、気が狂うね。憎み憎まれ、殺されて!醜くて吐き気がする!」

しかし、それが人間だった。日々、憎しみを増長させていくだけの、哀れな人間の性。そして、サガは誰よりもそれを傍で見てきた。
綺麗な面立ちに一切感情をみせる事なく、赤い瞳はただ赤く、赤く、見つめるだけ、そこには哀れみもない。
そんなサガが先ほど、放った言霊。覆せない過去。

感情の、吐露。

真っ赤な瞳を更に憎しみの色でにじませ(ないていた?)、
必要以上に言葉を紡がない唇がひびわれた言葉をつむいだ、



『巡り巡って、また私を殺しにきたのか!!許さない!!!殺してやる!!!!』



依頼のない上で、己の感情のみで力の発動を、サガは許されていなかった(だって、サガはぬぐいきれない罰をうけた結果、今の役をしているわけだから)。なのに、それすら構わず、力を放とうとしたサガ。
ただの、人間の青年にむかって。

経緯などただの式神である自分たちは知らない。ただ、その瞬間、サガを常に監視し続けたシオンが、サガを捕らえた。捕らえられたサガは、そのまま眠りにつかされた。

「…サガの笑った顔って、みたことあるか?」
「こんな時に何を」
「いやー?ただ、俺たちはそんなサガの表情すらしらないってこと」

眠り続けるサガをみる。感情を殺し、ただひたすら地上の業を払うことを任じられたひとを。
青年を見つめながら、呪いの言葉を放ちながら、それでも、泣いていたあのひと。

この恨み、地獄へ流すがいいと、ささやいたひと。

泣いたひと。

業は巡り巡るというのならば、サガの業は今どこにあるのだろう。
巡るものに、いつか終わりがあるのだろうか。







サガは夢をみていた。今はもう、どちらが夢なのかもわからないが。


暗い社の中に、光をもちこんだ少年との夢。あの日、翡翠色の瞳をした少年の告げた言葉を今でも覚えている。いつだって、忘れていない。
(そして、こんなにまで私を縛っている事を、この少年は知らない)(己の存在の業の、その深さを、少年は気付いていない)

「だから、しあわせもね、きっと巡るんだと思う」
「しあわせ?」
「いつか、ぜんぶ、巡るんだよ。良い事も悪い事も一緒に。それでね、」


俺の魂もいつか巡って、そうして、また君に逢いにいくよ。


巡って、巡って。



巡る夢の終わりはいつだって同じ、15の歳の冬。
アイオロスのその手が、サガを殺したところで終わる。



じごくしょうじょ (070319)

ロス兄さんは、感情を殺して仕事に励むサガの目の前を、幾度も転生を繰り返し姿形をかえ、ちらちらと通り過ぎる厄介な存在ってことで。そのたびにサガの心の琴線を触れて、サガを苦しめればいいと思った! サガと最初の因縁は、サガが地獄少●となる前、7の歳を迎える前に死ぬはずだったサガをアイオロスが助けちゃったのがはじまり