※恨みの念で多くの人間を殺してしまった代償によって、じごくしょうじょの任を負った人外の者=サガ。その昔、人間の頃のサガを殺した少年の、幾代目かの転生者=ロス。サガに仕えてる妖怪=年中の三人。人間の少年。だけど、彼の周りで次々と人が消える事件によって悪魔の子と噂され街中の人間から畏怖されてる=カノン…とかいうそんな感じ。





桜が、はらはらと舞って、
その中で笑っている彼がいて、
自分がいて、

とてもしあわせだった、かつての日。


アイオロスが、サガを殺さねばいけなかったあの日。
サガは今でも思い出せた。
あの美しい翡翠の瞳の色を。恐怖と絶望に染まった色を。


土に自分の体が埋もれていくなか、必死に彼に手をのばしながら、最後までサガが見つめたものは、彼のその瞳だった。

「 しんじて、たの…に… 」

サガのその声は土が全てのみこんでいった。

そのまま、最初から全てがなくなってしまえばよかったのに。


「        …ゆるさない」







目の前で蹲るカノンがつぶやいた言葉を、じごくしょうじょはしっかりと聞き止めていた。知っていた。
純粋な無垢な、正しく生きてきた哀れな子供。
雪はただただ静かに、白く降り続けていた。真っ白な世界。人の恨みと欲で業深くなったこの街を白く染める。

少年の大切なものはぜんぶぜんぶ、とうとういなくなった。じごくしょうじょの手によって全て地獄に流されてしまった。人々の業が、じごくしょうじょを呼び、浅ましき欲が、この街から半数もの人間を奪った。流して、流されて。もうそれはとまらない連鎖となって。
───そうして、一切汚れを知らなかった少年一人に押しつけられた。

「……ゆるさ、ない……ぜったい」

呟いた言葉を、「あの日に戻った」サガは確かに聞いていた。

少年は、ライターをてにとった。(あの日のサガのように)





「畜生!シオン!!!サガを何処にやった??!」
「あやつは、じごくしょうじょの役を損じた」
「っ!たったの一度!この気の狂う程長い時の間のたった一度だけだぞ。たったの一度、…あの子供を地獄に流さず現世に戻したからといって…」
「もういつまで、サガに業を払わせる気だ!答えろ、シオン!」

ぎらりと輝く銀の刃があと少しでシオンの首を断つ瞬間、シオンは銀の煙となって一瞬にして消えた。声だけが三人に届いた。

「もう、任は解いた。悠久の恨みの世界から、現世の時間に、サガを解き放ってやろう」

時間を、戻そう。
あの日の時間に、体に、恨みに、哀しみの底に、全てを返してやろう(あの日、封じた感情とともに)。


「────サガが、いるんだね」
唐突に割り込んだ声に、振り向くよりも前に、デスマスクは、ああと思った。ああ、だから。
ああ、だから、全てを終わらせる為に、「彼」が来たのだ。





巡るように運命は決まっていた。

何も悪くはなかったカノンに全てを押しつけ、あまつ殺そうとした(カノンの大切な人々ごと)その街の住人を、その幼い手でカノンは殺そうとした。街中に火を放とうとした。しかし途中で捕まり、カノンは再び大人達の手で殺されかけそうになる。
全てが終わり巡る、死。

そこに現れたのが、「あの日」の死にかけた姿のままのサガだった。

「カノンを、殺すな」

「あの日」に潰された喉はそれでもかろうじて言葉を紡いだ。すでにもじごくしょうじょと契約していた大人達はその姿に恐れをなした。
ゆっくりと少年の体が解放される。
サガが「行こう」と呟いた。

カノンはどこへ行けばいいのか、もう判らなかったが。

なにが、契機だったのか(全てがただ恨みで巡り)、
街の人間の一人が悲鳴のようにわめいた。絶叫した。

「俺は、また地獄にながされたくはない…!!!」

行こうとするサガの後頭部を思いきり殴ったのは、その男だった。
全ては、恨みと業により、巡る。


あの日のように、サガは再び、畏怖を抱いた人間たちによって殺され書けようとしていた。
縁は巡るんだ、と笑った少年はいったいだれだったろう?



それでももとから死にかけた体なのだから、サガはもう呻く事しかできない。心はあの日で止まったままだった。信じていた人に裏切られて、その人に殺されかけて、だから、────。
じごくしょうじょとしての記憶は曖昧で、でも、人間の数だけあった醜く哀しい恨みの果てだけを目が覚えていた。
震えた少年がこちらを怯えたようにみていた。カノンだった。彼が恨みに流されようとした時、その小さな手が恐ろしい業の連鎖に入ろうとしている姿をみて、サガは愕然とした。業の連鎖の果ては体が覚えていた。 だから、すくってやりたいとおもった───

怯える少年へ、サガはぐちゃぐちゃの手をのばした。


「   いきなさい 」


はっとした子供の目がこちらをみた。そして、叫んだ。


「やめて!!ころさないで!!」


大人達の手をすりぬけて、サガの体を守ろうとのばされた幼い手に、サガは、

サガは、あの日の桜の幻影をみた。それは、雪であったかもしれない。


「…遅くなった、………ね」


雪の中でたたずむ青年は、周りなどきにせずただ簡単に歩み寄り、その血泥によごれたサガの頬にふれた。あたたかいぬくもりは、同時に懐かしいと思えた。
あの日永遠に喪ったぬくもりだった。


人間の体を(あの日彼に殺された気持ちごと)返されたからこそ、彼のそのぬくもりが判った。


(それ以上、喋らないでほしい…)
(どうしてこのタイミングで)
(あの日の感情のままいる私は)



(また、彼は私を殺しにきたのだろうか)



サガをまっすぐとみつめる翡翠の瞳は、あの頃と全く変わらず、美しかった。



じごくしょうじょ (070512)