「お前といると、大切なものを喪いそうになる」 ベッドの中の住人のその唐突な一言に、さすがの射手座も言葉を一瞬うしなった。それはちょうど、風邪をひいて全く動けなくなってしまった双子座の為に射手座がつきっきりで看病をしている最中であった。 女官に任せると、すぐに「治ったから」と適当な事をいって(迷惑をかけたくないのかもしれないが)仕事に戻ろうとする双子座に呆れた射手座が自らかってでた。他の仲間に任せても矢張り同じで、双子座は何故だか他人に遠慮するような行動を時折していた。まるで境界線でわけるような。その点、射手座との間の境界線はすでにずたぼろで使い物にならないと知っているのか、年々遠慮というものを欠いてしまっていた。(出逢いが最悪だったのだと、自覚はしている) 「何?氷枕が冷たすぎたとか??」 「…いや、別に何でもない」 こちらに背をむけてしまった双子座をみて、たまらず射手座は溜息を吐く。熱に浮かされているのか何なのか。普段通りの発言にもみえて、どこか其処にさびしさがあったのは何故だろうと思う。 しかし、人の心など、射手座には判りようもなかった。特に大切な人の心ほど、大切にしすぎて判りづらい。そう、射手座の大切なものは、この金糸の青年だった。 (そうしたら、俺が彼を喪いそうになる瞬間とは一体いつなのだろう?) 物理的ではない、この心から。 (…いつだろうと、かまわない)(今しか、俺の手にはつかめない) 焦がれるように手をのばしたのは、無意識だった。 その美しい髪の一房を優しく手の中におさめ、誓うようにひとつだけ言葉を紡いだ。 「大切なモノが喪われないように、ずっと俺がこうして傍で見守っていてあげるから、今は眠りを。傍にいるから。 早く君には元気になって欲しいんだ」 言葉を紡いだ唇がその滑らかな髪に触れると、さらりとその髪は彼の指先から失われていってしまった。名残惜しくて、ほのかに射手座は笑った。 こちらをようやく見てくれた蒼い瞳は(射手座の愛すべき星は)、小さく首をふって、そして寂しそうに笑った。 「だから、喪い続けるんだよ」 初めてであったあの日の事を、双子座は今でもはっきりと思い出せる。あの日。生まれた時からただ一人傍にいてくれた半身を奪われたあの日。逢いたくて、傍に、一緒にいたくて泣いた。一人で泣いて泣いて、涙ばかりをこぼしていた時、出逢ったのだ。 『…きれいに、泣くんだね。きれい』 そう云って、笑ったあの顔を一生忘れられないと思う。何も知らないくせに頭をよしよしと撫でてきたあの柔らかい感触。それで何が変わったわけじゃなかった。何も変わらなかった。終わりが、始まっただけだった。 メメントモリ(死を思え) (07630) このままこうして彼にひとつひとつ丸く包まれてしまうと、一つに戻りたい半身との絆を喪ってしまいそうで。 |