夢を見た。白昼夢だ。
現実の世界で、夢を垣間見た。
血まみれの大地。崩れた神殿。誰もいない世界。光も風もない世界に、でも彼がいた。
光り輝くものを抱きながら、彼が立っていた。

私は、「それ」を返せと叫んでいた。髪を振り乱し、手に黄金の短剣をかかげ。
剣の刃で触れる瞬間、彼が微笑む。

「ごめん」と哀しげに笑った。


それは、いつかにおとずれる二人の「明日」だった。




現実も、夢もたいしてかわりない。どちらにあっても、彼は彼のまま、根拠のない言葉を紡ぐ。


「何処にも、行かないよ」


サガの認識する「人間」という範疇からおおいに外れているその男は、繰り返し繰り返し宥めるようにその言葉を紡いだ。事実、なだめられていた。
はてのない未来を視、ただでさえ危うげだった精神の均衡を崩し、暴れ憔悴しきったサガを、彼は傷を負いながらも抱きしめ、ずっとそうやって髪をすきながら言葉を紡いでいた。それしか、できないかのように。


「俺は、此処にいる。いるじゃないか。何処にも行かない」


掻き抱かれ、彼の肩越しに世界を見つめるサガは、それでも行くのだろうと思っている。彼はそんな事を云いながらも、いくのだ。判る。未来の彼はそんな笑みをみせながら、逝った。



夢の最後。彼は「それ」を抱えながら、闇にとんだ。
闇の触手にとらわれる瞬間、でもその闇がぱっかりと裂ける。そこから現れたのは、空。
青空が、闇より生まれた。
彼はそこに落ちていった。否、飛んでいった。吸い込まれた。

サガにはけっして手の届かない世界だった。



夢と現に漂うサガに、それでも彼は根気強くささやき続ける。


「君を置いて、何処にも行かないと約束するから」


なだめる様な声をききながら「それでも置いていくくせに」と今度は声にだして告げた。


平気な顔で、嘘をつく男なのだとサガは知っていた。




 (060901)
特に意味はないです。こういう話が無性に書きたくなったので、大昔に書いたヤツを修正してアップしました。