手の届かないものを思う度、わけもなく苦しくなった。
苦しくなった。悲しくなった。そうやって、いつか自分はひとり此処に取り残されるのだろうと漠然とそう予感していた。 孤独になるのだと知っていた。




「…宇宙?」
「そう、宇宙」

そう云いながら少年がさしだしてきた手に素直につかまり、ぎゅっと一瞬だけ強く引かれて、2人で屋根の上にあがった。家の中の子供達が起きないよう慎重に。それでも互いの目があった瞬間思わず、2人してくすりと笑みをこぼす。まるで、2人だけの秘め事のようで。
視界に広がるのは、満天の星々。きっと、この両手にはおさまりきらない、美しい美しいもの。

「…ま、漠然とこんな感じが宇宙なのかなーってぐらいなんだけど。俺、おまえみたいに学ねぇから難しい事よくわかんねぇし」

この東洋の血をひく少年は時折、他の人には感じ取れない事を感じ、たとえ遠くにいようとその人の「気配」みたいなものを漠然と感じ取るのだという。また、体の奥に何かドクドクとした心臓とは別の力を感じ、感情がたかぶるとその力が奥から吹きこぼれるように体全身に力がわくのだという。何かを感じとる事も、拳に感じる力強い力も、全てその身体の内に潜む漠然とした「宇宙みたいなもの」なのだと少年は云った。心の中に、宇宙があるのだという。

「…………宇宙かあ」

黒い髪の少年とは対照的な夜風にさらさらとなびく金糸をもつ少年が呟きながら見上げた星空はやはり手など届きようのない程遠く、人の手の及ばないそれはだからこそ尊かった。夜空すらこんなはかりしれないものなのだから、この果てに待つという宇宙は一体どういうものなのだろう。

「…アローンも、俺がおかしいと思うのか?」
「え、」
「………宇宙だなんて、馬鹿みたいじゃん」

貧民街で暮らすような子供には一生縁のない世界。それでも、少年はその内にあるものを「宇宙」としかいえなかった。果てしない虚空の中にいくつも輝きはじける星の瞬きのような。

押し潰されそうな程瞬く星の光から目を背け俯いてしまった少年の横で、その少年の友人は笑う。優しく、優しく、そっと、星の瞬きより切なく笑った。

「初めてテンマに宇宙の話をきいたとき、ああ君にぴったりだって思ったんだよ。いくつもの星が生まれて消えて、また生まれる世界。たくさんの光が生まれる宇宙が自分の中にあるってとても素敵な事だと思う。テンマみたいだ」
「…っ、…なんだそれ」

真っ直ぐなその言葉にたまらず恥ずかしくなった顔をあげ、金糸の少年をじとりと睨んだ。時に美しい赤の色を宿すでも今は鳶色の瞳がようやくこちらをみたので、アローンは笑みを深める。

そうしてまた、他愛もないおしゃべりの続きを始めだす。
あふれんばかりの星空の下、2人で流れ星を探しながら。




(…それでも、時々、)

ふと、どうしようもない不安を感じる事が金糸の少年にはあった。
どうしようもない、孤独。宇宙を感じるという友人。
金糸の少年は自分の奥に宇宙を感じた事はなかったが、友人が宇宙を感じるという時いつもその友人から感じる何かとても強い気配に、知らずいつも怯えていた。真っ直ぐな、真っ直ぐな、太陽のように明るい気配。太陽は好きだというのに、むしろ闇夜を恐れているというのに、何故か。
何故か、その気配がとても恐ろしいもののように感じていた。
漠然と、その「宇宙」はけっしてこの自分と相容れない、そう感じていた。

(君のいう「宇宙」が、いつか自分達を引き離してしまうんではないのだろうか)

それは、自分「達」ではなく、自分と彼をかもしれなかったけれど。


(それでも、その「宇宙」を拒絶する反面、強くその「光」に惹かれているんだ)
瞼裏に時折よぎる無限の闇の世界から、そう思う。




 (060901)
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